House View Weekly

変異株警戒緩和で上昇基調回復

株式市場は先週反発し、上昇基調に戻った。新型コロナの変異株「オミクロン株」が当初懸念されていたよりも毒性が低い可能性が示され、投資家に安堵感が広がった。

今週の要点

オミクロン株をめぐる明るい兆しに反応

新型コロナウイルスの新たな変異株であるオミクロン株が当初懸念されたほどの脅威とはならない可能性を示す暫定的なデータが好感され、MSCIオールカントリー・ワールド指数は先週3%上昇した。オミクロン株の重症化、感染力、既存ワクチンに対する耐性に関する初期データは我々の基本シナリオや強気シナリオと一致しており、市場はボラティリティ(価格の変動幅)の高い状況が一定期間続いた後、再び上昇し続けるという我々の見方を裏付けている。オミクロン株の感染力はデルタ株の4倍といわれているが、既存のワクチンにも高い防御効果がありそうだ。米製薬大手の研究結果によれば、同社のワクチンは、2回の接種では従来の変異株と比べて防御効果が大きく劣るものの、3回目の追加接種を行うことでオミクロン株に対する中和抗体の効果が得られ、2回接種していれば少なくとも重症化は避けられるという。また、さらなるデータが必要ではあるが、オミクロン株が最初に報告された南アフリカの症例報告によれば、症状はデルタ株よりも軽い。英製薬大手は、同社が開発した抗体治療薬について、オミクロン株のスパイクタンパク質において確認されているすべての変異株に有効であると述べている。

要点オミクロン株は特に悪性株ではなく、毒性はむしろ低く、市場の目は新型コロナから経済指標へと移行するだろうという我々の基本シナリオおよび強気シナリオに沿った展開となっている。世界経済の成長から恩恵を受ける勝ち組と、ヘルスケアなどディフェンシブ・セクターへのポジションでバランスを取ることを推奨する。

インフレにもかかわらず、各国中銀は依然として金融緩和的

11月の米国消費者物価指数(CPI)は前年同期比+6.8%と1982年以来の高い伸び率を示した。このデータを受け、米連邦準備理事会(FRB)による資産買入の縮小が現在予定されているよりも早く終了するとの見方が強まった。FRBは12月15日に米連邦公開市場委員会(FOMC)会合を開く。FRBを含む主要中銀は経済成長を支援し、株式市場の上昇を阻害するような金融政策を講じることはないと我々は予想する。市場は来年3回の0.25%の利上げを予想しており、FRBによる早期金融引き締めがもたらす数々の逆風をすでに織り込んでいる。つまり、思わぬ悪材料が出る余地は小さいということだ。FRBが予想通り量的緩和の縮小(テーパリング)ペースを加速するとしても、2022年1-3月期(第1四半期)はまだ緩和的な状況が続くだろう。世界の中央銀行のバランスシートは2022年も拡大が続くと見込む。中国は金融引き締めという世界的な潮流に逆行し、12月6日に一部の銀行に対する預金準備率を50ベーシスポイント(bp)引き下げた。我々は、サプライチェーンの混乱が収束するにつれて、来年半ばまでにインフレ圧力が後退するとの基本シナリオを変えていない。

要点パウエルFRB議長は、12月のFOMCでテーパリングを加速させる議論を行う意向をすでに市場に示している。だがこれは、FRBが断固としたインフレの抑え込みに転換したことを意味するものではない。我々はなお、各国中銀が金融緩和を継続するものと考えている。こうしたことから利回り追求は引き続き難しく、非伝統的な市場での投資機会を検討することを勧める。

中国IT企業のADRに対する懸念は行き過ぎ

このところ中国ITセクターの米国預託証券(ADR)の値動きが激しく、中国の某大手ITの上場投資信託(ETF)の週次リターンは過去5週間、+/-6~12%の幅で大きく上下している。香港の上場企業も値動きが荒い。これは、米国証券取引委員会(SEC)の監査規則の強化と、中国当局が変動持ち分事業体(VIE)を使った海外市場への上場を禁じるとの報道を受けたものだ。だが、こうした市場の調整は行き過ぎだと考える。今回の急落で、中国の大手インターネット株式のバリュエーションは、最近の利益の下方修正を割り引いた後でさえも過去の平均を下回る水準となった。規制当局による監視の強化は、長い目で見れば必ずしも悪いことではない。VIEスキームの禁止が米国政府によるVIEの見直しにつながるかもしれないと懸念する米国投資家は多いが、中国による政策監督の強化はVIEスキームの正当性を検証するための緩やかなプロセスの一部である可能性が高い。また、中国人民銀行が想定より早く行動に出たことは金融緩和に向けた重要な兆候であり、2022年上期に経済が回復するというシナリオを後押しするものだ。

要点中国IT株式の調整は行き過ぎと思われ、一部の厳選銘柄には中長期的な投資機会が浮上してきたとみている。だが、押し目買いを狙う場合は、規制変更や米中問題、マクロ経済リスクなどによる短期的なボラティリティに備えることを勧める。

今週の動きをどう見るか

変異株警戒緩和で上昇基調回復

株式市場は先週反発し、上昇基調に戻った。S&P500種株価指数は3.8%上昇し、終値で最高値を更新した。MSCIオール・カントリー・ワールド指数は3%上昇した。ボラティリティ(株価変動率)の指標であるVIX指数は、30を超える高水準から20を下回るまで下落した。初期データから新型コロナの変異株「オミクロン株」が当初懸念されていたよりも毒性が低い可能性が示され、投資家に安堵感が広がった。また、11月の米消費者物価指数(CPI)は前年同月比6.8%上昇と約40年ぶりの高い伸びとなったが、これは市場の予想通りであった。

今後数週間は、オミクロン株に関する追加の情報や12月15日の米連邦公開市場委員会(FOMC)会合の結果に市場が反応すると見込まれることから、ボラティリティが再び上昇する可能性が高い。しかし、直近の動きは、株価上昇が続くという我々の見方を裏付けるものとなった。

  • オミクロン株に関する現時点での情報から、同変異株は、我々の基本シナリオ通り、デルタ株の感染拡大の波に加わるとみられる。初期データによると、オミクロン株はデルタ株よりも感染力が強い可能性がある。京都大学の調査では、初期のオミクロン株の感染力はデルタ株の4.2倍に上ると報告されている。データは暫定的なものであり、確固たる結論を導く上ではサンプル数が少ないが、出現当初のデータによるとオミクロン株の症状は比較的軽い。英製薬大手は、同社が開発した新型コロナ抗体治療薬がオミクロン株にも有効な可能性を確認したと発表した。米製薬大手は、独バイオ企業と共同開発したワクチンがオミクロン株に対して2回接種では従来の変異株に比べて効果は大きく低下するが、3回目の追加接種により従来と同程度の予防効果があると発表した。また、2回接種でも重症化を防ぐ可能性はあるとしている。
  • 経済ファンダメンタルズは依然良好である。我々はオミクロン株についての実臨床データを引き続き注視していく。オミクロン株は症状が比較的軽くても、感染力が高いことから入院が必要な患者数が増えるリスクがあることにも留意する。しかし、我々の基本シナリオでは、各国政府は全面的なロックダウンではなく、部分的かつ短期的な経済活動規制により感染抑制を図ると思われ、景気への影響は限定的とみている。そうした状況の下、市場の関心はオミクロン株の感染状況から足元の世界経済の回復に移っていくと考える。アトランタ地区連銀が試算するGDP成長率「GDPNow」は米10-12月期GDP成長率を前期比年率8.7%と予想しており、また中国の直近のマクロ経済データも底堅さを示している。世界の実質GDP成長率は、2021年が6.0%、2022年が4.8%と我々は予想する。
  • 米連邦準備理事会(FRB)は量的緩和縮小ペースの加速を検討する方針だが、景気を冷やす早期利上げの可能性は低いと予想する。インフレ率の上昇が続いていることから、FRBは2022年半ばに終了を予定している資産購入のテーパリング(段階的縮小)ペースを加速することを今月のFOMCで決定するとみられる。しかし、FOMCはデータ重視の姿勢を維持しており、景気が急激に悪化した場合は政策を調整する用意がある。またFRB高官は、利上げにはテーパリングよりも厳しい条件を設ける方針を明らかにしている。市場はすでに2022年に3回の利上げ実施を織り込んでいることから、FRBからさらにタカ派的な発言が出ない限り、市場のセンチメントが悪化することはないと考える。これに加えて、今年市場は高インフレという悪材料にも十分対処してきた。7%近いインフレ率と、米国10年国債利回り1.5%および株式市場上昇の持続が併存することを投資家は今年年初に想像することはできなかったであろう。しかし、S&P500種は年初以降25%上昇した。インフレ率は2022年の間に鈍化し、FRBに対する引き締め圧力が弱まると予想する。

過去1週間の株式市場の反発でわかるように、短期的な懸念に基づくポートフォリオ戦略の変更は長期リターンを損なう可能性がある。市場の焦点は再び良好な経済ファンダメンタルズに移るとみられることから、株式市場のさらなる上昇と、日本株式、ユーロ圏株式、エネルギー株、金融株など直近の下落局面で大きく売られた一部景気循環株のアウトパフォームに備えたポジションを組むことを推奨する。また、直近の市場ボラティリティの上昇により、ヘルスケア・セクターなどのディフェンシブ・セクターや、ヘッジファンドなどのオルタナティブも一部組み入れた、十分に分散されたポートフォリオを構築する重要性が改めて確認された。

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本稿は、UBS AGが作成したUBS House View-Weekly Global (2021年12月13日付)を翻訳・編集した日本語版として2021年12月14日付でリリースしたものです。本稿の末尾に掲載されている「免責事項と開示事項」は大変重要ですので是非ご覧ください。過去の実績は将来の運用成果等の指標とはなりません。本稿に記載されている市場価格は、各主要取引所の終値に基づいています。これは本稿中の全ての図表にも適用されます。

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