House View Weekly
高インフレ下、企業利益が株価をけん引
10月の米国消費者物価指数(CPI)は前年同月比6.2%上昇し、1990年11月以来最大の伸びを示した。
2021.11.15
今週の要点
FRBはインフレ率の高止まりを黙認する姿勢
10月の米国消費者物価指数(CPI)は前年同月比6.2%上昇し、1990年11月以来最大の伸びを示した。物価の上昇は広範囲にわたっており、価格変動率の極端に大きい品目を除いて算出するトリム平均CPIも、前年同月比で4.1%増と2021年初めから2%上昇している。この数字は、供給の目詰まりの解消に想定以上に時間がかかっており、インフレ率が2022年半ばまで高止まりする可能性を示唆するものだ。米連邦準備理事会(FRB)の忍耐強さが試されており、株式市場では株価の変動率(ボラティリティ)が上昇している。だが我々は、FRBが圧力に屈して時期尚早な利上げを行うとは考えておらず、インフレ率が株価上昇の終焉をもたらすとは予想していない。パンデミックに起因する世界のサプライチェーンの混乱が解消されてくれば、物価上昇圧力はいずれ和らぐだろう。エネルギー価格は、高止まりはするものの、落ち着いてくる可能性が高い。また、特に新学期の開始に伴い労働市場に戻ってくる人が増えると見込まれるため、賃金上昇に歯止めがかかるだろう。FRB高官は、インフレと雇用関連指標がパンデミックにより一時的に歪んでいる状況と、経済正常化に伴う急激な需要拡大に引き続き注意を払っている。パウエルFRB議長は11月の連邦公開市場委員会(FOMC)後の記者会見で、「(コロナ後の世界は)さまざまな意味で以前と異なっており、我々はそうした状況を受け入れる用意がある」と述べた。
要点:予想を上回るインフレ指標が続いており、サプライチェーンの目詰まりの解消には想定以上に時間がかかっている。だが、我々の基本シナリオでは、インフレ圧力は来年中に徐々に後退し、FRBは緩和的な政策運営を継続すると見込む。これを踏まえ、伝統的な債券(アジア・ハイイールド債を除く)にはほとんど上値余地がないことから、利回り追求への多様なアプローチをとることを推奨する。
企業利益の回復が株価上昇を下支え
米国企業の7-9月期(第3四半期)決算発表シーズンが終わりに近づく中、好調な業績が引き続き株価を支えている。サプライチェーンの混乱にもかかわらず、S&P500種企業の売上高は前年同期比17%増加する一方、利益は今年38%以上伸びており、予想を10ポイントほど上回っている。こうした力強い企業利益は米国にとどまらない。ユーロ圏ではおよそ89%の企業がすでに決算発表を終えているが、利益予想を上回った企業は72%に上る。目先株価に上昇余地があるのはユーロ圏だ。ユーロ圏はその他地域よりも企業利益が大きく伸びており、今年の利益成長率を60%と予想する。パンデミックに伴う行動制限の緩和、在庫の積み増し、EU復興基金の支出開始により経済が急拡大しており、リスクは上振れ方向に傾斜している。MSCI EMU指数の12カ月予想利益に基づく株価収益率(PER)は16倍程度であり、バリュエーションはまだ割安に見える。低金利環境を踏まえれば、PERが約17倍というのは妥当だろう。また、収益を重視する投資家にとって、配当利回りが2.8%の欧州株式は、利回りがゼロかそれを下回る国債対比で魅力的に映る。
要点:力強い企業利益がグローバル株式市場を支えており、我々はS&P500種株価指数が2022年12月末までに5,000ポイントに達するとみている。一方、ユーロ圏は好調な世界経済の恩恵を受けることが予想されるため、世界の景気回復による勝ち組銘柄を推奨する。
COP26の成果は限定的だが、グリーンアジェンダ(環境対策)は揺るがない
11月13日に第26回国連気候変動枠組条約締結国会議(COP26)が終了したが、具体的な対策というより公約が多かった、というのが大半の意見である。本会議での進捗は限定的ではあったが、グリーンアジェンダが既定路線であることに変わりはなく、前向きな動きがいくつかみられた。まず、米国と中国が気候変動対策で協力を強化するとの共同声明を発表し、市場を驚かせた。また、石炭、メタンガス、森林破壊についても合意に至った。会合以外に目を向けると、温室効果ガス排出削減に向けた各国の取り組みが確認できた。バイデン米大統領は5,550億米ドル規模のクリーンエネルギー対策を盛り込んだ包括経済法案について議会承認をめざす一方、欧州連合(EU)も2030年までに温室効果ガスを55%削減するための政策「Fit for 55」を公表している。また、投資家、企業、消費者の意識の高まりを背景に、グリーンアジェンダの政策支援への依存度が低下しつつある。サステナブル投資残高は過去2年間に15%増加し、35兆米ドルに拡大した。消費者は環境インパクトの低い企業の製品を好む傾向を強めている。中国では、政府補助金の削減にもかかわらず、2021年1月~8月までの電気自動車(EV)販売台数は179万台と、前年から194%増加した。
要点:温暖化ガス排出ネットゼロ社会への移行は、クリーンエネルギー、エネルギー効率化・デジタル化、電化・蓄電池、バイオエネルギー、グリーン金融など、幅広い分野における投資機会を提供すると期待される。
今週の動きをどう見るか
高インフレ下、企業利益が株価をけん引
市場はどう動いたのか?
米国の物価上昇率は30年ぶりの水準に達した:10月の米消費者物価指数(CPI)の上昇率は前年同月比で6.2%となり、1990年11月以来の高水準となった。エネルギー価格および食品価格が物価全体を大きく押し上げたが、それらを除いたコアCPIも前年同月比で4.6%上昇した。
米国のイールドカーブはベアフラット化:CPI発表当日は、5年・30年国債の利回り格差が5ベーシス・ポイント(bp)縮小して68.5bpとなり、2020年3月以降で最もフラット化(長短金利差の縮小)が進んだ。市場が織り込む利上げ開始のタイミングは2022年7月に前倒しされた。S&P500種株価指数は反落したが、週末は最高値をわずか0.4%下回る水準で終えた。
企業の利益成長率は引き続き市場予想を上回った:米国の7-9月期(第3四半期)決算シーズンは終わりに近づいているが、市場予想を上回る業績を発表した企業の数は過去平均を上回った。
市場の動きをけん引した要因は何か?
先週は株式市場のボラティリティ(変動率)が一時的に急上昇し、米国のイールドカーブがベアフラット化(短期金利が長期金利以上に上昇し、長短金利差が縮小)した。これは、インフレ高進で急激な金融引き締め策が取られ、景気が減速しかねないとの懸念を反映したものと考える。各インフレ指標は市場予想を上回っており、金利および株式市場のボラティリティがさらに上昇する可能性がある。
インフレ高進はしばらく続く可能性があるが、来年には鈍化するとみている:物価上昇は予想以上に広がりを見せ、また長引いており、目標を上回る上昇率は今後数カ月にわたり続くと見込まれる。しかし、我々の基本シナリオでは、2022年には需給不均衡が徐々に解消され、エネルギー価格が安定化し、多くの労働者が労働市場に戻ってくるとみており、物価上昇率は足元の高水準から減速すると考える。これにより消費者、金利、企業に対する圧力が軽減され、株式市場にとっては好ましい環境となるであろう。
米連邦準備理事会(FRB)は忍耐強く待つ姿勢を維持するであろう:不透明な経済環境を前に、FRBは政策運営について慎重に判断し、利上げに関して忍耐強く待つ姿勢を維持するとみている。11月の米連邦公開市場委員会(FOMC)会合の重要なメッセージの1つは、経済データ(物価と雇用の双方)がパンデミックにより歪められており、政策当局者は過剰に反応すべきではないということである。そのため、FRBの忍耐強い姿勢は物価上昇により試されることになろうが、FRBは時期尚早の引き締め政策による景気の腰折れは回避したい考えと思われる。
良好な企業ファンダメンタルズ(基礎的条件)が引き続き注目され、株式市場の上昇を後押ししよう:S&P500種構成企業の92%が第3四半期の決算発表を終えたが、80%の企業は利益が市場予想を上回った(過去5年平均は76%)。増収率は前年比17%となり、サプライチェーンの問題を抱えながらも企業の売上(中央値)はコンセンサス予想を2%上回った。需要が旺盛なため、企業はコスト上昇の価格転嫁が容易となっている。S&P500種構成企業の第3四半期の利益率は過去最高の水準が維持された。最終的に、第3四半期の前年同期比増益率は38%を超え、市場予想を約10%ポイント上回った。欧州では、企業の約89%が決算発表を終え、72%は利益が市場予想を上回った。世界全体の1株当たり利益(EPS)成長率は、2021年が+43%、2022年が+9%になると予想する。堅調な企業業績は、短期的には株式市場の追い風になると考える。
これは投資家に何を意味するのか?
S&P500種は最高値圏にあるが、高い経済成長率、堅調な企業業績、金融緩和政策がインフレ懸念よりも優勢となり、株式市場の一段の上昇を後押しすると考える。エネルギー株、金融株、米国中型株、ユーロ圏株式、日本株式など、世界的な経済成長の恩恵を受ける株式を推奨する。
今後数カ月はインフレが高止まりし、金利の低位推移が続くと予想されることから、キャッシュや高格付債の実質価値は目減りすると考える。プラスの実質リターンを獲得するため、米国シニアローン、アジア・ハイイールド債、一部の高金利通貨や、プライベート・クレジットなどの非伝統的な利回りの源泉に注目したい。