日本株式

日本企業のガバナンス改善が株主リターンの鍵

東京証券取引所の2022年4月の市場再編に伴い、日本企業のコーポレート・ガバナンス改善の取り組みが進み、株主リターンは増大すると考える。

  • ESG投資の最初の波が起きてからおよそ7年が経った今、日本企業は第2の波を迎えている。
  • 東京証券取引所は2022年4月に市場区分の見直しを行い、上場規程等の改正を行う予定である。これに伴い、コーポレート・ガバナンスや流動性、ROE(自己資本利益率)の向上を目指す企業の取り組みが加速し、結果的に時価総額の拡大につながると考える。配当と自社株買いは、これまで日本の株式市場のパフォーマンスを大きく牽引してきた重要な要素の1つであり、今後もそうした状況が続くものと考える。
  • コーポレート・ガバナンスの改善を背景に、日本企業は今後1~2年で配当性向を高め、これにより株主へのリターンは増大すると考える。配当が増加し、アジア市場に占める日本株式の時価総額構成比が上昇すれば、日本の株式市場は海外投資家から再び注目を集めると思われる。

概要

日本企業は新市場での「プライム市場入り」を目指して取り組みを進めると予想する。アジア市場に占める日本株式の時価総額の構成比は低下傾向が続いており(図表1)、日本市場への海外投資家の関心も低い。こうした中、東証の市場再編を機に、日本企業の間に「余剰資金に安住する」従来の経営スタイルから脱却し、純利益(もしくはバランスシート上の余剰資金)に対する経営判断を積極的に見直す動きが広がると考える。その背景には、大きく次の3つの理由があると考える。

日本企業は新市場での「プライム市場入り」を目指して取り組みを進めると予想する。アジア市場に占める日本株式の時価総額の構成比は低下傾向が続いており(図表1)、日本市場への海外投資家の関心も低い。こうした中、東証の市場再編を機に、日本企業の間に「余剰資金に安住する」従来の経営スタイルから脱却し、純利益(もしくはバランスシート上の余剰資金)に対する経営判断を積極的に見直す動きが広がると考える。その背景には、大きく次の3つの理由があると考える。

まず第1に、環境・社会・ガバナンス(ESG)投資家が、バランスシート上に現預金が積み上がっている企業に対して、配当性向の引き上げを要求する声が強まるとみられる。配当性向(現金配当と自社株買いを含む)が高まれば、結果的に企業の自己資本利益率(ROE)が上昇する。日本企業のROEは、欧米企業の平均に比べると、依然として低水準にとどまっている。

第2の理由は、2022年4月に開始される東京証券取引所(東証)の市場再編により、日本企業が株式持ち合い(多くの場合は上場子会社の株式保有か、または取引先企業の経営戦略的な株式保有)の解消や、ノンコア(非中核)資産の売却の動きが加速するとみられることだ。今年6月のコーポレートガバナンス・コード改訂も、日本企業に、潜在的な利益相反問題を意識した上場子会社株式の保有見直しを促すはずだ。今後は、ノンコア事業や子会社の保有株式の売却が進むだろう。結果、積み上がった余剰資金をもとに、近く増配や自社株買いが行われると見ている。

第3の理由は、日本の上場企業の4分の1以上の株価が1株当たりの純資産より低い状態である、すなわち株価純資産倍率(PBR)が1倍割れとなっていることだ。経済がパンデミックから回復しつつある中、自社株買いは企業にとって余剰資金の有効な使い道になると考える。日本の企業経営者は、投資家からの高い期待に積極的に応えるようになるだろう。最近、物言う株主からの提案が増加していることからも、日本企業が投資家からコーポレート・ガバナンスの改善圧力を受けている状況が浮かび上がる。そのため、日本企業は今後増配や自社株買いを積極的に実施し、ROE改善に向けた取り組みを活発化していくものと想定される。

日本のコーポレート・ガバナンスはどのように改善されるか?

ESG投資の最初の波が起きてから約7年が経った今、日本企業は第2の波を迎えている。東証は2022年に上場規程等の改正を予定しており、これに伴い、コーポレート・ガバナンスや流動性、ROEの向上を目指す企業の取り組みが加速し、結果的に時価総額の拡大につながると考える。次に、東証市場改革がなぜコーポレート・ガバナンスと密接に関係しているのかについて説明する。

2022年4月に東証は、新たな上場基準を導入する予定だ。現在5つの株式市場に上場している各企業(合計で3,700社超)は、「プライム」、「スタンダード」、「グロース」の3つのいずれかの市場に上場することになる。プライム市場に上場する企業には、株式の流動性について厳格な規則が適用される。具体的には、プライム市場に上場するには、流通株ベースの時価総額が100億円以上、かつ、経営者、金融機関、および取引先企業の保有株式を除外した「流通株式(浮動株式)」の比率が35%以上とする基準を満たさなければならない。新基準では政策保有株式(株式持ち合い)が流通株式の計算から除外されるため、多くの日本企業は、2022年4月以降プライム市場に上場するために、株式持ち合いの解消や非中核的な子会社の株式売却などの企業努力が必要になるだろう。

また、プライム市場上場企業には、2021年6月に改訂された新たなコーポレートガバナンス・コードの一層の遵守が期待されている。東証の市場改革は、世界基準のコーポレート・ガバナンス、収益力、情報開示を兼ね備えた日本企業の存在感を高めたいという狙いがある。日本企業のROEが比較的低いことから(平均で約8%)、多くの日本企業が持ち合い株式(またはノンコア事業)を売却して得た手元資金を活用して、株主への還元強化を行うものとみている。東証の市場再編が来年に迫り、コーポレートガバナンス・コードが改訂され、ESG要件が厳格化されるこの機に、余剰資金を縮減し、非中核事業を売却し、株主還元の強化に取り組む企業が増えるものと考える。こうした動きが結果的にROE向上につながるだろう。


本稿は、UBS SuMi TRUSTウェルス・マネジメント株式会社が作成した“Japanese equities: Japan's corporate governance improves shareholders' return”(2021年11月9日付)を翻訳・編集した日本語版として2021年11月12日付でリリースしたものです。本レポートの末尾に掲載されている「免責事項と開示事項」は大変重要ですので是非ご覧ください。過去の実績は将来の運用成果等の指標とはなりません。本レポートに記載されている市場価格は、各主要取引所の終値に基づいています。これは本レポート中の全ての図表にも適用されます。
居林 通

UBS SuMi TRUSTウェルス・マネジメント株式会社
チーフ・インベストメント・オフィスジャパン・エクイティリサーチ・ヘッド

居林 通

さらに詳しく

2006年9月にUBS証券株式会社にアナリストとして入社。以来、日本の株式、経済動向を分析し、国内・海外に発信している(UBS SuMi TRUSTウェルス・マネジメント株式会社の営業開始に伴い2021年8月に同社に移籍)。以前は1992年から2003年まで国内大手投資信託にてアジア株および日本株のファンドマネージャーを経験、その後2003年から2006年までヘッジファンドにて日本株の運用などに携わった。
日経CNBCなどにコメンテーターとして出演する傍ら、日経ビジネス、日経新聞、ロイターなどの各種メディアでも解説記事、インタビューなどを通してUBSの投資見解を提供している。現在の連載は週刊ダイヤモンド「株式市場 透視眼鏡」、日経ビジネスオンライン「市場は晴れ時々台風」。2001年エモリー大学ゴイズエタビジネススクール(米国アトランタ)にてMBA取得。

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