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株式市場の楽観は妥当

S&P500種株価指数は先週1.8%上昇した。第3四半期の決算発表シーズンが好調なスタートを切ったことと堅調な経済データが好感された結果だ。

今週の要点

米国のインフレ高進は長引かない見通し

米国のインフレ率は9月に再び高進し、消費者物価指数(CPI)は6、7月に続き、再び13年ぶりの高水準である前年同月比5.4%をつけた。CPIの構成品目の70%超が前年比で上昇し、下落した品目は7%にとどまったことから、物価上昇圧力が広範囲に広がっていることが読み取れる。インフレの裾野はこれまで予想されていた以上に広く、且つ長期化しているが、この状況が持続するとは考えていない。前月比で見たインフレ率は、第2四半期の平均0.8%から第3四半期は平均0.4%へと減速しており、低下基調にある。新型コロナのパンデミックを受けた需要の増大で上昇した財・サービスの価格は正常水準へと戻りつつある。例えば中古車価格は6月には前月比で10.5%上昇していたが、9月には0.7%の下落に転じた。また、政策当局もインフレに対し過剰反応はしていない。直近のCPIデータが発表される前の9月21~22日に開催された米連邦公開市場委員会(FOMC)の議事要旨が13日に公開されたが、これによると、米連邦準備理事会(FRB)は足元のインフレ高進を「一時的」とする見方を引き続き強調している。また、債券購入の縮小時期が近付いている一方で、利上げの時期が近付いているわけではないことも改めて強調している。

要点我々は、インフレ率の高進が長期化し、FRBが足元の想定よりも大胆な金融引き締めを余儀なくされるとは予想していない。FRBが金融緩和を継続する中、投資家には、プライベートクレジットなど利回り追求への多様なアプローチを検討することを勧める。

サプライチェーンの混乱が米企業利益の回復を妨げる可能性は低い

株式投資家はここ数カ月間で慎重な姿勢を強めている。サプライチェーンの混乱をめぐる不安がその一因だ。米大手通信機器メーカーが世界的な半導体不足を理由に新型スマートフォンの2021年の生産目標を1,000万台引き下げたことなどからも、サプライチェーンの混乱による影響が読み取れる。しかし、こうした不安は早晩後退し、先週始まった米国企業の7-9月期(第3四半期)決算発表の重しとなることはないだろう。新型コロナ禍での東南アジアの半導体チップ製造の遅れや、8月に米国を襲ったハリケーンの影響によるメキシコ湾の石油化学工場の操業停止といった悪材料は、すでに改善に向かっている。こうしたサプライチェーンの混乱の影響として、S&P500種株価指数の今年の1株当たり利益が1%程度押し下げられると推定しているが、S&P500企業の今年の増益率については45%と予想しており、これに照らすと影響の程度はさほど大きくはない。経済面については、世界の新型コロナウイルス新規感染者数が6週間連続で減少している(ジョンズ・ホプキンス大学のデータによる)中、経済再開の進展が企業収益の支援要因となる見通しだ。また、米国の消費は、これまでのロックダウン中に積み上がった約2.4兆米ドルに上る家計の過剰貯蓄に支えられるだろう。

要点S&P500種株価指数構成企業の第3四半期決算については、コンセンサス予想を17%上回った4-6月期(第2四半期)の前年比88%増益には届かないものの、コンセンサス予想を5%上回る30%程度の増益を予想している。シクリカル(景気敏感)セクターが引き続き最も高い増益率を示すと我々は予想する。

法人税最低税率の世界的な統一は投資家の懸念にはおよばず

多国籍企業の法人税率については、過去40年間にわたって引き下げ競争が行われてきた。その法人税率について、先週、世界の巨大企業に対する法人税率を最低15%に統一することで136カ国が合意した。投資家が企業収益への課税率引き上げを歓迎することはめったにないが、今回の改革にはいくつかのメリットがあると我々はみている。税制が国ごとに異なると、企業は実務面での負担を強いられ、また企業の投資意欲がそがれることもある。そのため、統一化することによりコストが削減されると同時に、投資への押し上げ効果も期待できる。また、今回の措置が実際の企業収益に及ぼす影響は限定的とみられる。我々の分析によると、米企業にとっては、バイデン政権が提案している「米国外軽課税無形資産所得税制(GILTI)」の影響の方が大きくなるだろう。これは、企業が海外に保有する特許などの無形資産から得た「超過」収益に課す最低税率を現行の10.5%から16.56%に引き上げるというものだ。ただこの場合でも、GILTIの税率引き上げによる影響は、我々の試算では企業利益を1~2%押し下げるにとどまる。国際的な取り決めを導入することで、テクノロジー企業に対する各国のデジタル税の脅威は後退する見通しだ。フランスやインド、英国などは、大手IT企業からの税収増を狙ったデジタルサービス税を導入している。こうした動きが国際的な取り決めで完全に阻止されるわけではないが、これにより、デジタル税などの規制の導入を求める政府への圧力は軽減されるだろう。

要点法人税の最低税率の導入がグローバル投資家にとって重大な脅威になるとはみていない。各国政府は国内の法整備を進めるが、今回の法人税改革が実施されるのは2023年以降となる見通しで、投資家には十分な調整の時間があるだろう。ただし、公開市場以外への分散投資を検討している投資家には、オルタナティブ投資にも幅広い魅力的な投資先がある。

今週の動きをどう見るか

株式市場の楽観は妥当

Mark Haefele チーフ・インベストメント・オフィサー

市場はどう動いたのか

S&P500種株価指数は先週1.8%上昇した。第3四半期の決算発表シーズンが好調なスタートを切ったことと堅調な経済データが好感された結果であり、週間上昇率としては7月以来の高さとなった。最大の伸びは木曜日に確認され、500の構成銘柄のうち479銘柄の株価が上昇した。一方、米国10年国債利回りは先週4ベーシスポイント(bp)低下している。米国2年・10年国債利回りのイールドカーブは12bpフラット化しており、投資家が米連邦準備理事会(FRB)による最初の利上げ時期を前倒しで織り込んでいる様子がうかがえる。コモディティ価格が過去最高を更新する展開を見せているため、スタグフレーションへの警戒感も消えていない。

市場の動きをけん引した要因は何か

  1. 米国の7-9月期(第3四半期)決算シーズンが好調な幕開けとなったことで、サプライチェーンの混乱やエネルギーの供給不足をめぐる懸念が薄れたようだ。決算発表は従来通り金融機関で始まり、9社中8社が予想を上回る利益を報告した。
  2. 金利低下が全面的な株価下支え要因となっており、特にグロース株でその傾向が強い。9月からの金利の急上昇は、ペースが減速している様子だ。金利上昇ペースの減速は、S&P500種の全24業種が木曜日に上昇した一因だ。
  3. 債券市場はFRBによる早期の利上げリスクを重視する度合いが強いようである。というのも、最近の10年国債の利回り低下をけん引していたのは、マイナス1%を割り込んで低下した実質金利だからだ。イールドカーブのフラット化と合わせて、こうした市場の動きは、FRBがこれまでの予想より利上げ開始時期を早め、長期的成長に影響が及ぶ可能性を債券市場が懸念していることを示唆している。

これらの市場のけん引役をどう解釈するべきか?

第3四半期決算が好調にスタートしたことは、金融やインターネット、ソフトウェア、ヘルスケアを始めとするS&P500種の最大構成セクターの多くにとって、サプライチェーンをめぐる足元の懸念がさほど大きく影響していないことを再確認している。総じて、サプライチェーン混乱による影響は今年の1株当たり利益(EPS)を1%押し下げる程度だと我々はみている。我々が予想する今年通年の増益率45%に照らすと、打撃は軽微にとどまるものと見込まれる。

また、我々はFRBが足元のインフレ高騰に惑わされないとの見方を変えていない。FRBは平均インフレ目標(AIT)政策を取り入れることでインフレ率についての考え方を変えている。この政策は、短期的な指標のみを注視するのではなく、一定期間の平均インフレ率に金融政策をリンクさせるものだ。そして、米国の平均インフレデータから判断すると、FRBは行動に出る必要がないと考えられる。2年、3年、5年間の移動平均のいずれでも、個人消費支出(PCE)コア物価指数は2%を大きく下回ったままだ。労働市場が持続的に回復していくに伴い、利回りは年内に1.8%まで上昇すると予想している。利回りがこのように徐々に上昇した場合、これまでの経験では、株価が上昇する。

これは投資家に何を意味するのか?

株式市場と債券市場の動きからは相反するメッセージが読み取れるため、我々は、株式投資家の強気スタンスに注目する。成長見通しが明るいことは、14日に発表された堅調な雇用データにも現れており、9日までの1週間の新規失業保険申請件数と失業保険の継続受給者数はともに、昨年のパンデミック以来の低水準になった。家計の強いバランスシートも需要を支える要因になると我々はみている。米国の家計はパンデミックによるロックダウン中に2.4兆米ドルの貯蓄を積み上げており、新型コロナウイルスの直近の波が収束するに従い、これが支出に向けられる可能性は高い。第3四半期決算は第2四半期ほど好調なものとはならない見通しながら、30%程度の利益の伸びは見込めると予想している。これはコンセンサス予想を5%上回る水準である。我々は、基本シナリオで引き続き株式の上昇余地を見込んでおり、エネルギーや金融など、世界的な経済成長の恩恵を受ける銘柄を推奨する。

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本稿は、UBS AGが作成したUBS House View-Weekly Global(2021年10月18日付)を翻訳・編集した日本語版として2021年10月20日付でリリースしたものです。本稿の末尾に掲載されている「免責事項と開示事項」は大変重要ですので是非ご覧ください。過去の実績は将来の運用成果等の指標とはなりません。本稿に記載されている市場価格は、各主要取引所の終値に基づいています。これは本稿中の全ての図表にも適用されます。

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