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スタグフレーション懸念も、株価は上昇

エネルギー価格の急騰を受け、スタグフレーションをめぐる懸念は先週初めの相場を支配したものの、米国の財政審議の進展の兆しが好感され、株価はプラス圏を回復して週を終えた。

今週の要点

エネルギー不足はスタグフレーションではなくボラティリティを招く

欧州の天然ガス価格は先週、過去最高値を更新した。経済の再開を受け、需要が急速に高まっていることがその背景だ。数年にわたり設備投資を抑制してきたため、供給不足の解消は容易ではない。在庫水準は低く、厳冬となった場合にはガス不足に陥るとの見通しから、インフレと景気停滞が共存するスタグフレーションへの懸念が強まり、先週初めは株式、国債ともに下落した。ロシアのプーチン大統領が欧州へのガス供給を拡大する可能性を示唆したものの、増産能力は限られており、厳冬シナリオが現実となれば、テールリスクとして停電の可能性が残る。ガス不足が深刻化するに伴い、投資家は市場のボラティリティ(相場変動)の一段の高まりに備えるべきではあるが、我々はスタグフレーションにいたるとはみていない。第1に、各国中央銀行は、燃料価格の短期的な動きには捉われない方針を明示している。第2に、世界の国内総生産(GDP)1米ドルに対して投入されるエネルギーの量は、ここ10年間で20%近く低減、1970年代比では半分以下に低減しており、供給の混乱による経済成長への潜在的な影響は小さくなっている。また、消費支出は物価上昇の影響を受ける可能性があるが、ロックダウン中に支出が抑制されたことで貯蓄額が異例の高水準にあるため、影響は限定的と考える。最後に、経済のファンダメンタルズは良好である。ワクチン接種の進展に加え、米大手製薬会社が米食品医薬品局(FDA)に新型コロナ向けの飲み薬の緊急使用許可を申請したことなども、経済再開の順調な進展を支えている。

要点:引き続き、世界経済成長の恩恵を受ける勝ち組銘柄への投資を推奨する。

米国の予算協議は膠着状態ながらも方向はポジティブ

米国の9月の非農業部門新規雇用者数は194,000人と市場予想を下回った。一方、8月の同雇用者数は131,000人上方修正された。また、失業率は8月の5.2%から4.8%に改善した。議会の財政協議は膠着状態にあったが、打開に向けて進展し、債務上限を一時的に引き上げたことで債務不履行(デフォルト)のおそれが12月まで先送りされ、また年内には歳出案が約2兆米ドル規模に縮小して成立する可能性が高まった。こうした進展を背景に、米連邦準備理事会(FRB)が11月にテーパリング(量的緩和の縮小)を発表するとの見通しが維持されるだろう。しかし、FRBは早期引き締めが景気回復や市場にリスクとなることを警戒しているため、金融政策は緩和姿勢が続くと我々はみている。FRBは直近9月の会合で、債券購入の縮小は経済指標の好調が続くことが条件であると強調し、早期の利上げは示唆しなかった。また、インフレリスクが高まっていることを指摘したが、パウエル議長はこれらはいずれ「後退」し、「インフレ率は長期の目標である2%に近付いていく」との見方を示した。

要点:経済成長が近く減速したり、予算審議の膠着により政治リスクが増大しても、株価の上昇基調が続くとの我々の基本シナリオに変わりはない。S&P500種株価指数の来年後半の予想水準を5,000としている。ただし、投資家にはオルタナティブ投資を含む多様なリターン源泉を検討することを勧める。

米ドルへの追い風は続く

DXY米ドル指数は9月初め以降約2%上昇している。債務上限をめぐって議会審議が行き詰まるなか、安全性が高いとされる通貨へ資金が流入したことも米ドルの後押し要因になっている。議会が先週のように一時しのぎの決定を下すのではなく、我々の予想どおり膠着状態を打開すれば、米ドルは短期的に下落する可能性がある。しかし、今後数カ月間は、米ドルを支える追い風が見込まれる。最近の米国債の利回り上昇傾向は今後も続き、金融政策の引き締めからは程遠いユーロやスイスフラン、円に対する米ドルのプレミアムは拡大するだろう。さらに、今年下期から世界経済成長は減速すると我々は予想しており、そのためユーロやスイスフランなど米ドルよりも景気感応度の高い通貨は下落するだろう。最後に、米国は燃料の純輸出国であるため、エネルギー価格の上昇の恩恵を受ける。アジアや欧州の多くなどのエネルギー純輸入国とは対照的だ。欧州では天然ガス在庫が過去の季節水準を約20%下回り、中国では石炭在庫が低水準にあるなど、欧州やアジアは化石燃料価格の上昇に対する耐性が米国よりも弱い。

要点:第4四半期は既存の米ドルの買い持ちを維持する一方で、米ドル相場が下落すれば、その機会をとらえて円やユーロ、スイスフラン、新興市場通貨に対して米ドルのポジションを積み増すことを勧める。

今週の動きをどう見るか

スタグフレーション懸念も、株価は上昇

市場はどのように動いたか?

エネルギー価格の急騰を受け、スタグフレーションをめぐる懸念は先週初めの相場を支配したものの、米国の財政審議の進展の兆しが好感され、株価はプラス圏を回復して週を終えた。グローバル株式は過去1週間で0.7%上昇し、S&P500種株価指数は0.8%上昇した。最高値に対し、グローバル株式は4.1%、S&P500種は3.2%の範囲に戻っている。米国の10年債利回りは13ベーシスポイント(bp)上昇し、6月以来初めて1.6%を超えて終えた。米国の10年債利回りは、8月上旬の低水準以来44bp上昇している。

市場の主な牽引要因は?

スタグフレーションの懸念が

米国の経済指標は、景気の鈍化をめぐる投資家の懸念を裏付ける形となった一方、インフレは期待されたよりも一過性が低いように思われる。アトランタ地区連銀の経済予測モデル「GDPナウ」による第3四半期の経済成長率予想は、10月5日に1.3%に低下した(わずか10日前には3.2%)。インフレ面では、8月の個人消費支出(PCE)コア価格指数(FRBが注目する物価指標)は前年同月比で3.6%上昇した。

エネルギー価格の急騰によって増幅するも

化石燃料価格は過去最高値または数年ぶりの高値圏に押し上げられている。パンデミック後に経済が再開するにつれて、エネルギー需要は急激に回復している。天候が要因の電力不足や電力系統等への再生可能エネルギーのインテグレーション(統合)の課題、地政学、サプライチェーンのボトルネックなどの問題もエネルギー供給を制約している。欧州(英国NBP、オランダTTF)の天然ガス価格は年初来330~410%上昇し、最高値を更新した。欧州(ARA)とアジア(ニューカッスル)の石炭価格は記録的な水準に達しており、1トン=200米ドル以上で取引されている。ブレント原油価格は現在、3年ぶりの高値である1バレル=80米ドルを上回っている。

米国の財政の崖問題における進展によって相殺される。

米国上院は、12月初めまでの連邦政府の債務上限の一時的な引き上げを承認した。先に、同期限まで政府機関の閉鎖を回避するための継続予算決議が可決されている。このつなぎ予算は約8週間で失効するものの、米国債の即時のテクニカル・デフォルトを回避し、双方が2022年の予算法案に関する合意に達するための時間的猶予が確保できる。

これらの市場の牽引要因に対する我々の見方は?

我々の基本シナリオでは、成長率はピークに達している可能性があるものの、今後の数四半期は堅調に推移する一方、インフレ率が今年の急上昇からは後退するとみている。我々はスタグフレーションの懸念は行き過ぎだと考えている。

現在は1970年代ではなく

エネルギー価格の急騰は成長を鈍化させる一方、現在では生産活動における石油の投入量とインフレへの影響(実質所得の伸び)が小さくなっているため、リセッションを引き起こす程ではないと考える。例えば、世界のGDPに対する石油消費量(石油強度)は、1990年以来25%、オイルショックがリセッションを招いた1970年代初め以来50%以上、それぞれ低下している。さらに、石油が支出に占める割合は以前よりも小さくなっている。米商務省・経済分析局(BEA)のデータによると、米国の個人消費支出に占めるガソリンの割合は2014年には3.26%(当時の原油価格は1バレル=80ドル前後)だったが、現在は2.35%にすぎない。

… 2013年でもない

歴史的に、リセッション入りの重大な要因は政策ミスである。現在、中央銀行は、時期尚早に行動せず、2013年のような「テーパー・タントラム(量的緩和縮小観測を受けた市場の混乱)」を回避するために慎重である。先週、欧州中央銀行(ECB)のラガルド総裁は、「我々の金融政策は供給不足やエネルギー価格の上昇に直接影響を与えることができないため、我々はこうした状況に過剰反応すべきではない」と述べた。FRBは、債券購入の縮小は引き続き経済指標の好調が続くことが条件であることを強調している。米国の9月の非農業部門雇用者数は194,000人と予想を下回った。8月の雇用者数は131,000人上方修正され、失業率は8月の5.2%から4.8%へ改善された。指標は強弱まちまちであることから、FRBが11月にテーパリング(量的緩和の縮小)を発表する可能性は残るが、これが早期の利上げにつながる訳ではないことをFRBは明言している。

これは投資家にとって何を意味するか?

全体として、現在のエネルギー価格の上昇による経済成長とインフレ率への影響は小幅にとどまると予想している。我々の分析に対するリスクは、北半球の厳冬によるエネルギー価格の再急騰や鉱工業生産の混乱とGDPへの影響である。米議会は債務上限とインフラ支出に関する合意を先送りしたものの、いずれ妥協点に着地し、デフォルトは回避され、2兆~2.5兆米ドル規模の支出法案が通過すると予想される。投資の観点からは、市場はある程度の追加支出を織り込んでいるものの、刺激策が株式市場に大きな影響を与えるとは考えていない。

我々の基本シナリオでは、引き続き株価の上昇を見込み、エネルギーや金融など世界的な成長の恩恵を受ける勝ち組銘柄への投資を推奨する。エネルギー価格上昇の要因の一部は、まだエネルギーが十分な再生可能エネルギーに置き換えられていない状況下で化石燃料への投資が減少したことであると考えれば、従来のエネルギーと工業用金属、そしてグリーンテック双方への分散投資が、炭素排出量ネットゼロへの移行の潮流を捉える現実的な投資戦略だと考える。

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本稿は、UBS AGが作成したUBS House View-Weekly Global (2021年10月11日付)を翻訳・編集した日本語版として2021年10月14日付でリリースしたものです。本稿の末尾に掲載されている「免責事項と開示事項」は大変重要ですので是非ご覧ください。過去の実績は将来の運用成果等の指標とはなりません。本稿に記載されている市場価格は、各主要取引所の終値に基づいています。これは本稿中の全ての図表にも適用されます。

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