日本株式

堅調な企業利益にもかかわらずパフォーマンスは低迷

日本株式市場はこの3カ月間グローバル株式市場をアンダーパフォームしているが、日本企業は依然として業績回復サイクルの途上にあり、市場は今後反発するとみている。

  • 日本株式市場は、この3カ月間グローバル株式市場をアンダーパフォームしている。日本のワクチン接種ペースの後れと不安定な政治情勢によるものと考える。
  • しかし、我々はいくつかの理由から日本株式は反発するとみている。
  • 日本企業は依然として業績回復サイクルの途上にあり、これまでコロナ禍で抑圧されてきたサービス需要が間もなく回復に転じると予想する。

我々の見解

日本株式市場はこの3カ月間、米国などの主要市場をアンダーパフォームしている。これは、日本の新型コロナワクチン接種の後れと不安定な政治情勢によるものだろう。中国市場も、インターネット・サービスや教育セクターに対する規制強化を逆風に、最近はパフォーマンスが低迷しており、それが外国人投資家の日本株式市場に対する警戒感に波及した可能性がある。日本株式市場の1日平均売買代金に占める外国人投資家の割合は70%以上に上るが、4-6月期の企業業績が予想以上に好調だったにもかかわらず、外国人投資家が日本株式市場に戻る動きはまだみられない(年初からの売越額は1兆3,000億円)。

しかし、我々は日本株式は反発するとみている。理由は3つある。第1に、日本の新型コロナワクチンの接種率は上昇しており(図表1参照)、他の主要国に追いつこうとしている。9月末までには人口の半分がワクチン接種を終えるだろう。実際、各種調査によると、日本国民は米国や大半の欧州諸国よりもワクチン接種に積極的だ(接種を望まない人の割合は、7月末時点で米国が29%、フランスが24%であるのに対し、日本は13%)。したがって、日本はいずれ経済活動を再開し、サービス需要も2022年には回復に向かうだろう。

第2に、日本企業の堅調な業績見通しである。4-6月期業績は我々の予想を上回り、売上高は前年同期比28%増、純利益は同434%と急増した。これだけの力強い回復は、昨年の水準がコロナ禍で大幅に落ち込んだことが主な原因ではあるが、営業利益率はコロナ以前の水準をすでに上回っている(図表2を参照)。この2週間で、TOPIX500株価指数構成企業のうち78社が業績見通しを上方修正した。これは、日本企業の利益が、過去12カ月間の世界の(主に米国からの)需要拡大と各企業のコスト削減努力に支えられていることを示す力強い証跡といえるだろう。

4-6月期の業績発表を受けて、我々は2021年度(2022年3月期)の増益率予想を42%(従来予想は40%)、2022年度の予想を8%(従来予想は7%)へと上方修正した。業績見通しが上方修正されているにもかかわらず株価が下げたため、日経平均採用銘柄の株価収益率(PER)は(2月時点の23倍から)18倍を下回る水準へと急低下した(図表3参照)。日本のワクチン接種率が上昇し、経済再稼働がさらに進めば、割安なバリュエーション、増益見通し、サービス需要の拡大予想を根拠に、外国人投資家が日本株式市場に戻ってくる可能性が高い。

第3に、菅義偉総理大臣の支持率が30%を下回る水準まで低下したことが株式市場への追加的な下げ圧力になっている。今後2~3カ月で与党自民党の総裁選と衆議院議員選挙が予定されているため、政治情勢は当面重要な要素になるだろう。自民党と連立与党は衆議院の過半数議席を維持し、総選挙の後も政権を維持すると我々は予想している。さらに、政府(現政権か次期政権)は、景気浮揚に向けて追加財政刺激策を講じるだろう。そうなると、政治・経済の空白懸念は緩和すると思われる。

以上をまとめると、日本株式市場の最近の低迷は、ワクチン接種率の遅延と緊急事態宣言の延長をはじめとする比較的短期的な悪材料が日本経済の再稼働を遅らせたことによるものと言えそうだ。日本企業は依然として利益回復サイクルの途上にあり、サービス需要が間もなく回復に転じると我々はみている。したがって、PERが低いことや、現在日本株保有比率が低い外国人投資家の日本株への投資比率引き上げが期待できることなどから、日本株式には中期的な投資妙味があると考える。


本稿は、UBS SuMi TRUST Wealth Management Co., Ltd.が作成した“Japanese equities: Underperformance despite solid earnings growth”(2021年8月11日付)を翻訳・編集した日本語版として2021年8月13日付でリリースしたものです。本稿の末尾に掲載されている「免責事項と開示事項」は大変重要ですので是非ご覧ください。過去の実績は将来の運用成果等の指標とはなりません。本稿に記載されている市場価格は、各主要取引所の終値に基づいています。これは本稿中の全ての図表にも適用されます。
居林 通

UBS SuMi TRUSTウェルス・マネジメント株式会社
チーフ・インベストメント・オフィスジャパン・エクイティリサーチ・ヘッド

居林 通

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2006年9月にUBS証券株式会社にアナリストとして入社。以来、日本の株式、経済動向を分析し、国内・海外に発信している(UBS SuMi TRUSTウェルス・マネジメント株式会社の営業開始に伴い2021年8月に同社に移籍)。以前は1992年から2003年まで国内大手投資信託にてアジア株および日本株のファンドマネージャーを経験、その後2003年から2006年までヘッジファンドにて日本株の運用などに携わった。
日経CNBCなどにコメンテーターとして出演する傍ら、日経ビジネス、日経新聞、ロイターなどの各種メディアでも解説記事、インタビューなどを通してUBSの投資見解を提供している。現在の連載は週刊ダイヤモンド「株式市場 透視眼鏡」、日経ビジネスオンライン「市場は晴れ時々台風」。2001年エモリー大学ゴイズエタビジネススクール(米国アトランタ)にてMBA取得。

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