Monthly Letter 8月号

債券自警団

債券市場は「長期停滞」を織り込んでいるが、景気指標はこれを裏付けていない。現在は一時的なテクニカル要因で利回りが低下するも、米10年国債利回りは年後半に2%に向かうと予想する。

1994年、クリントン元米大統領の顧問、ジェームズ・カービル氏は次のような名言を吐いた。「もし生まれ変われるものならば、私は債券市場になりたい。誰をも脅かすことができるからだ」。当時、債券利回りが上昇すると、政策決定者は財政政策を引き締めざるを得なかった。カービル氏はその苦境に言及したのである。だが、あれから25年以上が経過し、債券市場はいまや当時とはまさに正反対の理由で市場を脅かしている。それは、金利が低すぎるということだ。今月、米10年国債利回りは1.25%まで下げ、景気回復を見込んでいる株式投資家は、それに疑問を抱かざるを得なくなった。

この6カ月を振り返ると、株式市場はマンスリーレター5月号で注目した「狂騒の20年代」ストーリーにけん引されてきた。マクロ経済環境に対するこのストーリーが株式を支え、とりわけエネルギーや金融セクターといったリフレーション関連セクターが好調だった。ところが、ここ数週間は、このストーリーが長期停滞ストーリー(低成長、低インフレ率、低金利)の1つに主役の座を譲り渡している。株式市場全体は上昇が続いているが、債券価格も上昇し(利回りは低下)、ボラティリティ(変動率)も上昇し、景気回復の恩恵を最も受けやすい企業は長期的な経済成長の影響を受ける企業のパフォーマンスを下回っている。

この変化は、次の懸念が要因と考える。(1)高いインフレ率を受けて、米連邦準備理事会(FRB)が性急に利上げをせざるを得なくなり、将来の経済成長の芽を摘んでしまうかもしれない。(2)新型コロナウイルスのデルタ株の影響で、世界
の景気回復が遅れる可能性がある。(3)政策変更と成長モメンタムの鈍化で、世界の経済成長を最も強力にけん引している中国のセンチメントを悪化させるかもしれない。

本レターでは、ストーリーの変化の背景を検討しつつ、現時点での我々のマクロ経済に対する見方を改めて示した上で、投資家から受けている主な疑問のいくつかに答えようと思う。一言で言うと、「長期停滞」ストーリーは、現時点における景気指標に裏付けられたものではないと考える。我々はリスク資産に強気の姿勢を維持しており、債券利回りは年末に向けて上昇すると予想し、経済活動の再開と景気回復に備えたポジショニングを引き続き提唱している。株式では、日本、新興国、金融およびエネルギー・セクターを推奨する。我々の金利見通しを根拠に、ユーロ/米ドルをニュートラルに変更する。

インフレ懸念は、今後数カ月は消えそうにない。その結果、我々の中期的な景気見通しが正しいとしても、ボラティリティは拡大する可能性がある。さらに、ポートフォリオの利回りを引き上げ、相場の下落から資産を守るために分散投資を図り、長期にわたって保有資産の購買力を維持するようにポートフォリオを構築することをすすめる。

インフレ圧力でFRBは予想よりも早く金融引き締めを余儀なくされるか?

6月の米連邦公開市場委員会(FOMC)では、FRBがインフレ率の上昇を受けてタカ派寄りに傾いていることが明らかになった。FOMC委員による金利予想によると、利上げ開始時期が2023年と、これまでの予想よりも早くなっていたか
らだ。2022年中の利上げを見込む委員も複数いた。米国のインフレ率が唐突に上昇したため、今やインフレリスクが上振れているとFOMCの過半数の委員が判断した。

FOMC以降、米10年国債と30年国債の利回りは低下している。株式では、S&P500種株価指数の中でも金融、エネルギー、素材など景気感応度の高いセクターが下げたのに対し(FOMC会合後はそれぞれ1.7%、8.1%、1.7%下落)、長期成長が見込まれるセクターは上昇した(ハイテクは+8.1%)。

インフレ率が上昇すれば、名目債の利回りは(低下ではなく)上昇すると考えるのが妥当だろう。FOMC以降の相場変動に対する1つの解釈は、FRBによる利上げタイミングが早まり、景気回復に冷や水を浴びせるという政策上の失敗を犯すのではないかとの投資家の懸念である。

経済に作用しているディスインフレ圧力(インフレ抑制)を政策担当者は克服できるのか、という長期的な疑問を我々は抱いているが、だからと言って目先のインフレ率上昇を受けてFRBが過度な金融引き締めを余儀なくされることはないとみている。

インフレ期待は引き続き安定している:期待インフレ率を示す10年のブレークイーブン・インフレ率は現在2.33%だ(ブレークイーブン・インフレ率とは、名目国債利回りと物価連動国債利回りの差で、市場に基づく期待インフレ率を示す)。平均インフレ率目標の下では、FRBが許容できる持続的なインフレ率の上限は3%だ。つまり、インフレ率の中期的な見通しが3%を超えない限り、中央銀行は利上げを余儀なくされることはない。

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本稿はUBS AGが作成した“Bond vigilantes”(2021年7月15日付)を翻訳・編集した日本語版として2021年7月26日付でリリースしたものです。本レポートの末尾に掲載されている「免責事項と開示事項」は大変重要ですので是非ご覧ください。過去の実績は将来の運用成果等の指標とはなりません。本レポートに記載されている市場価格は、各主要取引所の終値に基づいています。これは本レポート中の全ての図表にも適用されます。
Mark Haefele

最高投資責任者
UBS Global Wealth Management

Mark Haefele

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プリンストン大学で学士号、ハーバード大学で修士号と博士号を取得。フルブライト奨学生として、オーストラリア国立大学で修士号を取得。ソニック・キャピタルの共同創立者および共同ファンドマネジャー、マトリックス・キャピタル・マネジメントのマネージング・ディレクターを務め、チーフ・インベストメント・オフィスが設立された2011年に、インベストメント・ヘッドとしてUBSに入社。

ハーバード大学にて講師および学部長代理を歴任。市場動向ならびにポートフォリオ管理に関するハフェルの見解は、CNBC、Bloombergをはじめグローバルなメディアで定期的に取り上げられている。

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