グリーンテック

グリーン銘柄は強弱まちまち

グリーンテック銘柄はセクターにより強弱まちまちだが、長期的な見通しは引き続き良好である。

  • クリーンエネルギーは軒並みアンダーパフォームしているが、グリッド・インフラストラクチャーなどその他のサブセクターは底堅く推移している。米国ではバイデン米大統領が提案する大型インフラ投資計画の行方にも注目が集まっており、これが相場変動の一因となる可能性がある。
  • グリーンテック市場の一部にはまだ大きな成長機会があるとみている。短期的には銘柄選別がパフォーマンスに影響しうるが、長期的な見通しはグリーンテック全体にわたって引き続き良好である。
  • リスク許容度が高い長期投資家には、足元の調整とボラティリティ(株価の変動率)は今後10年の長期的な成長機会に投資する好機となるだろう。
  • 投資戦略としては、サプライチェーン企業に対してグローバルに分散投資することを勧める。短期的に妙味がある銘柄としては、グリーンテック企業に供給する部品メーカー、水素事業に参入している工業用ガス企業、グリーンテックを推進するイネーブリング技術などが有望と考える。

グリーンテックはクリーンエネルギーだけではない

我々の定義するグリーンテックには、クリーンエネルギーだけでなく、脱炭素化を支援・実現するさまざまな技術も含まれる。具体的には、風力や太陽光技術に加えて、エネルギー効率改善のためのソリューション、バッテリーおよび蓄電技術、電気自動車(EV)向け部品、水素、半導体などのイネーブリング技術もグリーンテックに含めている。昨年から2021年現在までのパフォーマンスは、セクターによってまちまちの展開となっている。

2020年、再生可能エネルギー企業のパフォーマンスは、新型コロナの世界的な感染拡大にもかかわらず底堅い需要に加え、政策の後押し期待にも支えられて、非常に堅調に推移した。その結果、バリュエーションは長期平均を大幅に上回る水準にまで上昇した。だが、2021年2月26日付レポート「グリーンテック:市場はいまグリーンバブルか?」で指摘した通り、バリュエーションはサブセクター間で、また、サプライチェーンの段階によっても大きく差が開いた。こうした株価の動向は2021年上期のパフォーマンスにも顕著に表れた。例えば、ナスダック・クリーンエッジ・スマートグリッド・インフラストラクチャー指数のパフォーマンスは、年初からS&P500種株価指数と同様に上昇したが、同グリーンエネルギー指数は下落した(2021年6月20日現在)。同様に、売上に占める燃料電池機器の比率が高い水素専業企業は、年初から市場全体をアンダーパフォームしており、株価は昨年の急騰から反落し妥当な水準にまで調整している。一方、水素関連事業に参入している大手工業用ガス企業で構成されているS&P500種工業用ガス(サブセクター)指数のパフォーマンスは相対的に良好で、年初来の絶対リターンはプラスである。また、イネーブリング技術の1つである半導体も、年初からのパフォーマンスは堅調である。

こうしたパフォーマンス格差は、バリュエーションだけが原因ではなく、市場全般でグロース株から景気に敏感なバリュー株へのローテーションが起きていることも要因の1つと考える。コロナ禍では長期成長企業が注目され、中心となるテクノロジー銘柄が買われた。だが直近では経済活動の再開が本格化する中で、リフレ環境が追い風となるセクターへの切り替えが進んでいる。こうした中、金利の影響を受けやすいクリーンエネルギー企業が低迷する一方、HAVC(暖房、換気、および空調)やインフラ関連銘柄等の景気循環色の強い銘柄が買われる展開となった。

投入コストの上昇をめぐる懸念

バリュエーションと金利上昇は、クリーンエネルギー銘柄が下落した一因ではあるが、グリーンテック銘柄のパフォーマンスが低下した主因は投入コストである。その1つが半導体だ。他の最終市場と同様、EVや再生可能エネルギーでも半導体の供給が逼迫している。EVはガソリン車よりも多くの半導体を搭載しており、既存のガソリン車1台あたりに占める半導体価格が平均約330米ドルであるのに対し、EV車では最大で1,000米ドル近くに上るほどだ。このため、大手自動車メーカーは半導体の供給不足を理由に生産停止や減産を強いられ、部品メーカーも厳しい状況に直面している。だが、半導体不足にうまく対処している企業もあり、短期的なボトルネックがEVの長期成長ストーリーを阻害することはないと考える。確かにEV市場の競争は激化しており、企業間の品質や生産能力の差異は意識する必要がある。だが、再生可能エネルギーとEVの連携を実現する最近の合弁企業や、連邦・地方政府の所有車両のEV化を進める動きなどを追い風に、EVの成長見通しはさらに上向くと予想する。

供給が逼迫しているのは半導体だけではない。コロナ禍からの回復に伴う急激な経済活動の再開が、景気循環セクター(原材料を含む)に対する需要圧力を生み出している。グリーンテック産業に欠かせない鉄鋼、銅、アルミニウム、ポリシリコンなどの原材料価格は軒並み上昇している。だが、こうした重要な材料の供給不足は、コロナ禍からの経済回復という異例の環境に起因する短期的な現象であるとみられ、ここからさらに価格が大きく値上がりするとは考えていない。また、2022~2023年にかけてポリシリコンの増産計画があり、これが足元の供給不足の解消に寄与するだろう。投資家は、原材料の製造を手掛ける企業にポジションを取ることで、これらの最終市場の成長を捉えることができるだろう。一方、ポリシリコンの全世界の供給の半分程度を生産する中国の一部地域で強制労働が疑われている問題に対しバイデン米政権が懸念を表明していることから、米国の政策動向にも引き続き注視していく(訳注:米国は6月24日、同地区で生産された太陽光パネルの原料の一部を輸入禁止とした)。

だが、こうしたコスト上昇の懸念は、強い成長を示すデータにより相殺されている。一部のクリーンエネルギー企業は、投入コストの上昇にもかかわらず、今年の業績予想を引き上げている。同様に、中国のEV市場も2021年半ばまで底堅く推移している。これは、中~高級クラスの新型EVモデルが相次いで市場に投入されたことで需要が伸びたことが背景にある。また、グリーンエネルギー指数の低迷とは対照的に、発電容量は拡大している。米国クリーン電気協会(American Clean Power Association)によれば、クリーン電気業界の新規発電容量は、2021年1-3月期(第1四半期)に過去最大の伸びを示した。具体的には、風力発電の第1四半期の発電容量は、前年同期比で40%以上増加している。

今後の展開は?

今後の展開については、米インフラ投資計画案の可決見通しが高まるまではバリュエーションがパフォーマンスの重石となるだろう。需給逼迫の解消見通しもなお不透明であることから、投入価格も引き続き焦点となる。クリーンエネルギーのバリュエーションは長期平均と同程度まで調整しており、グリッド・インフラストラクチャー企業のバリュエーションも長期平均をおよそ1標準偏差上回る水準で横ばい推移している。だが、これらの指数にはまだ割安感はない。グリーンテックは今後さらなる成長が見込まれることから、投資機会は依然健在とみているが、投資家は株価上昇を誘引する材料を待つ局面に入ったと考えられる。バイデン大統領が提案するインフラ投資計画の一部は最終的に成立すると予想するが、その規模が当初想定を下回るリスクも意識される。一部のグリーンテック銘柄、特にバリュエーションが高い企業や、インフラ法案期待から上昇していた建築エネルギー効率のソリューションを手掛ける企業は、当面、高ボラティリティが続く可能性がある。

地域別投資見通し

中国

中国製の太陽光発電用ガラスは、3.2ミリの価格が1㎡当たり40人民元から20人民元に下落した後、6月に底値を打った模様だ。我々は、第2四半期末における需要の季節要因に加えて、ポリシリコンの供給不足がこの急落を招いたとみている。第3四半期に向けて、前述の増産計画によりポリシリコンの価格が直近高値から下落するかどうかに市場の注目が移ると考える。これを踏まえて、我々は太陽光発電用ガラスメーカーの中で、今年株価が最も調整している銘柄に特に強気の見方を維持する。風力発電の川下セクターについては、第2四半期に、省政府が省境で風力発電を運用する事業者と合弁企業を立ち上げ、補助金を拠出する計画であると報道されたことが、市場に好感されている。

中国のEV市場では既存の自動車メーカーの参入が進んでいる。既存メーカーは高級EVモデルにマーケティング戦略をシフトしている。このため、今後は新規参入による競合が加速し、市場シェアが減少するものと見られる。EVセクターでは引き続き銘柄選定が重要である。最近の中国EV銘柄の回復は、世界的な半導体不足が恐らく底を打って最悪期を脱し、徐々に回復しつつあるとの見方が強まったことが一因である。

アジアのEVバッテリーメーカーとその川上にあるサプライヤーは、アジアの自動車メーカーの高い稼働率を背景に、今年上期も引き続き受注が伸びている。加えて、政府支援や補助金に誘発された欧米など海外自動車メーカーからの需要も高まってきている。引き続きアジアのバッテリーメーカーには強気だが、バリュエーションが高く大半の好材料が織り込み済みである川上のバッテリー材料サプライヤーには慎重な見方を強める。

欧州

グリーンテックに対する政策支援は依然として手厚い。欧州では、年後半にEU復興基金の第1回の資金配分が行われる。米国のインフラ投資計画案の行方はなお不透明だが、EU復興基金による排出削減対策に対する追加投資、再生可能エネルギー、電力供給網、EV投資への支援は、欧州グリーンテック企業にとってさらなる支援材料になるだろう。欧州の大手再生可能エネルギー・デベロッパー、事業者、メーカーはすでに米国でも大きな市場シェアを握っており、今後数年にわたりこの主要市場で巨額の投資を計画している。EVやエネルギー効率に注力する大手企業も、最近の米国や欧州での動向が追い風になるだろう。我々は総じて「欧州のグリーンテック」というテーマには引き続き強気であり、再生可能エネルギー、エネルギー効率、バッテリー、水素、デジタル化といった分野の大手グリーンテック企業に対して、バランスよく投資する戦略を重視する。

日本

日本政府は6月2日、「2050 年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」案を示した。14の重点分野に変更はなかったが、地熱発電に一層焦点を当てることが盛り込まれた。太陽光や風力発電に加えて、政府は中核的な発電源として水素技術にも注目している。日本のインフラ設備は大部分が1970年代から1980年代に建設され40年以上経過しているため、設備の更新が必要である。「2050年カーボンニュートラル」目標を追い風に、今後数年は特にクリーンエネルギー転換(システムを含む)に向けたインフラ支出が拡大すると考える。再生可能エネルギー設備の必要性や、強力な政府支援を考えると、グリーンな社会構築に向けたインフラ刷新に長期的な投資機会が見出せる。

米国

引き続き主要企業には妙味があり、長期的なポジション構築を推奨するが、インフラ投資法案との関連性が強いとみられる企業を中心に、短期的に高ボラティリティが続く公算が大きい。今後数カ月で最も妙味がある銘柄としては、複数のグリーンテック企業に供給する部品メーカー、水素関連事業に参入している工業用ガス企業、グリーンテックを支援するイネーブリング技術企業などが有望と考える。


本稿は、UBS Financial Services Inc. (UBS FS) 、UBS AG Hong Kong Branch、UBS Switzerland AG、UBS AG Singapore Branch および UBS Securities Japan Co., Ltd.が作成した“Greentech: Revisiting the green "bubble""(2021年6月21日付)を翻訳・編集した日本語版として2021年7月6日付でリリースしたものです。本レポートの末尾に掲載されている「免責事項と開示事項」は大変重要ですので是非ご覧ください。過去の実績は将来の運用成果等の指標とはなりません。本レポートに記載されている市場価格は、各主要取引所の終値に基づいています。これは本レポート中の全ての図表にも適用されます。

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