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転換点を迎えるAI、市場最高値更新へ

人工知能(AI)向け米半導体大手の好決算を受けて、2月22日の米国株式市場は上昇した。テクノロジー・セクターの見通しが強気に受け止められたためだ。S&P500種株価指数は前日比2.1%上昇して過去最高値で引け、同社の株も16.4%上昇した。

何が起きたか?

人工知能(AI)向け米半導体大手の好決算を受けて、2 月22 日の米国株式市場は上昇した。テクノロジー・セクターの見通しが強気に受け止められたためだ。S&P500 種株価指数は前日比2.1%上昇して過去最高値で引け(訳注:翌23 日も小幅に値上がりしたため最高値は再度更新)、同社の株も16.4%上昇した。これにより同社の時価総額は米国企業の時価総額における1 日の増加額としては過去最高額を更新した。2023 年11 月-2024 年1 月期(第4 四半期)決算では、売上高が前年同期比でおよそ265%増となり予想を上回った。同社の最高経営責任者(CEO)は、今年2-4 月期(第1 四半期)の売上高がアナリスト予想を上回ると見通し、AI は需要が企業、業界、国を問わず世界的に急拡大していることから「転換点を迎えた」と語った。

大型テクノロジー株やグロース株が相場を牽引し、22 日時点でS&P500 種株価指数の年初来上げ幅は6.6%となった。米国で特に取引の多いテクノロジー株10 銘柄に連動するNYSE FANG+指数は、昨年1 年間で96%上昇したが、2024 年初来でさらに15.1%上昇している。

好調な経済指標を受けて、市場による米連邦準備理事会(FRB)の利下げペース予想が後退し続けているにもかかわらず、株式市場は上昇した。21 日に公表された1 月の米連邦公開市場委員会(FOMC)議事要旨では、FRB 高官の利下げを急がない姿勢が示され、リッチモンド連銀のバーキン総裁も同日、サービス価格のインフレが高止まりする可能性に懸念を示した。市場は現在、年内に約80ベーシスポイント(bp)の利下げを織り込んでいるが、1 月のピーク時には170bp だった。22 日の米10 年国債利回りは1bp 上昇して4.33%となった(2024 年初は約3.88%)。

直近の米国経済指標は依然として強い。S&P グローバルが発表した2 月の製造業購買担当者景気指数(PMI)は2022 年9 月以来の高水準となった。また1 月の中古住宅販売戸数は、約1 年ぶりの大幅な伸びとなった。

どう考えるか?

テクノロジー株の急騰を受けて、利益を確定すべきか検討している投資家もいるだろう。我々は、ポートフォリオのリバランスは効果的な手段だとみてはいるが、米国の大型テクノロジー株に対する長期的なポジションを維持することは重要であり、テクノロジー株の上昇はまだ続く可能性があると考える。

我々は、生成AI がこの10 年間で成長するテーマだとみており、今回の決算は足元のAI インフラ投資の強さを示すものだ。我々は、2027 年までのAI 業界における年平均収益成長率を約70%とみており、コパイロット(業務支援ツール)、クラウド、データモデル*、その他ソフトウェアでAI の活用が広がる中、AI の収益化は加速するだろう。それでも、15 日に発表された、文章によるプロンプト(指示)で動画を生成する新たなAI モデル「Sora」など、開発の急速なペースを踏まえれば、この見通しは控えめかもしれない。

テクノロジー・セクターの予想株価収益率(PER)は27 倍と、過去10 年平均を約22%上回っている。だが、2021 年4 月のピーク時(約34 倍)からは低下しており、利益は急激に成長している。我々は、2024 年の世界のテクノロジー・セクターの1 株当たり利益成長率(EPS)を前年比18%と予想する。

投資手法

テクノロジー株の急騰と、FRB の利下げ見通しの不確実性を受けて、我々は次の戦略を推奨する。

テクノロジー株への投資を最適化する:将来の投資パフォーマンスは、テクノロジー・セクターの投資比率に大きく左右されると考える。投資家はテクノロジー・セクターへの投資に消極姿勢をとるわけにはいかない。テクノロジー企業の業績は急成長が見込まれ、大企業がさらに巨大化すると予想されるからだ。だが同様に、少数銘柄への集中投資や過度な投資にも警戒が必要である。さまざまな企業もしくは創造的破壊をもたらす企業に分散することもできる。

相場下落時の損失を抑えつつ、アップサイドを捉える:株式市場のボラティリティが低い一方で債券利回りが高い足元の状況は、相場下落時の損失を抑えつつ、アップサイドを追求する戦略を検討する好機である。これらの戦略は、テクノロジー・セクターなどの下落リスクがあるが上昇余地も十分に見込める市場で特に効果を発揮する。

ゴルディロックスの恩恵を享受する:テクノロジー以外にも、FRBの利下げ、依然堅調な経済成長、そしてインフレ低下が重なることで、上昇相場の裾野が広がると予想されることから、投資家にはそれに備えたポジション構築を勧める。このシナリオ下では、金利感応度が高く割安な米国と欧州の小型株、スイス中型株、新興国株式などが特に恩恵が大きいと予想する。

流動性を管理する: 2023年後半~2024年初めのFRBの利下げスピードについて市場の見通しは楽観的すぎたが、2024年は金利が低下すると予想する。これによりキャッシュのリターンは徐々に低下し、高い利回りを確定していない投資家にとってリスクとなるだろう。投資家には、キャッシュやマネー・マーケット・ファンド(MMF)以外にも、定期預金や債券ラダーなどを組み合わせて流動性戦略を多様化し、今後5年間で見込まれる支出に充てることを勧める。

*データモデル…様々なデータを整理して一定の構造や形式で記述したもので、データベース構築やソフトウェア開発の基盤となる。

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本稿は、UBS AGが作成した“CIO Alert: AI ‘tipping point’ drives new market high” (2024年2月22日付)を翻訳・編集した日本語版として2024年2月26日付でリリースしたものです。本レポートの末尾に掲載されている「免責事項と開示事項」は大変重要ですので是非ご覧ください。過去の実績は将来の運用成果等の指標とはなりません。本レポートに記載されている市場価格は、各主要取引所の終値に基づいています。これは本レポート中の全ての図表にも適用されます。
Mark Haefele

最高投資責任者
UBS Global Wealth Management

Mark Haefele

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プリンストン大学で学士号、ハーバード大学で修士号と博士号を取得。フルブライト奨学生として、オーストラリア国立大学で修士号を取得。ソニック・キャピタルの共同創立者および共同ファンドマネジャー、マトリックス・キャピタル・マネジメントのマネージング・ディレクターを務め、チーフ・インベストメント・オフィスが設立された2011年に、インベストメント・ヘッドとしてUBSに入社。

ハーバード大学にて講師および学部長代理を歴任。市場動向ならびにポートフォリオ管理に関するハフェルの見解は、CNBC、Bloombergをはじめグローバルなメディアで定期的に取り上げられている。

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