CIO Alert
ワクチンと景気刺激策で株価反発
1 日の米国株式市場は上昇した。バイデン大統領が提案する1.9 兆米ドル規模の追加景気刺激策が成立に向けて前進したことや、米製薬大手が開発した1 回接種型の新型コロナワクチンが米国内で承認されたことが好感された。強い米国の製造業景気指数と、先週急騰した米10 年国債利回りが低下したことも支援材料となった。
2021.03.01
1日の米国株式市場は上昇した。バイデン大統領が提案する1.9兆米ドル規模の追加景気刺激策が成立に向けて前進したことや、米製薬大手が開発した1回接種型の新型コロナワクチンが米国内で承認されたことが好感された。強い米国の製造業景気指数と、先週急騰した米10年国債利回りが低下したことも支援材料となった。こうした株価の反発から、先週の下落はボラティリティ(市場の変動)の急上昇によるものであり、市場見通しにおけるファンダメンタルズの変化ではないとの我々の見方が裏付けられた。我々は引き続き、景気感応度の高い市場とセクターを中心に一段の株価上昇余地があると予想しており、投資家にはボラティリティの急上昇局面を活かして、キャッシュを投資に回し、ポジションを構築することを勧める。
何が起きたか
1日の米国株式市場は上昇した。債券利回りが低下し、新たな新型コロナワクチンの承認と追加景気刺激策の下院可決が株価の押し上げ要因となった。S&P500種株価指数は、エネルギー・セクターを筆頭に主要業種が軒並み上昇し、2.4%高で取引を終えた。金融や資本財などのその他景気敏感セクターも同指数をアウトパフォームした。ハイテク・セクターの株価も反発し、ナスダック総合指数は3%上昇した。米10年国債利回りは26日に低下した後、1日には2ベーシスポイント(bp)上昇して1.42%となった。25日には一時1.61%をつけていた。
今回の株式市場の上昇は、様々な要素が複合的に作用した。
追加景気刺激策、成立へ前進。先週末、バイデン大統領の提案する1.9兆米ドル規模の追加景気刺激策が下院で可決された。民主党が最低賃金の引き上げを盛り込む計画を断念したとのニュースを受けて、同法案が上院で可決される確率が高まった模様だ。法案に最低賃金引き上げが盛り込まれていれば、財政調整措置を活用して上院民主党が単純過半数で経済対策を可決することはできなかっただろう。
新型コロナ対策の進展。米当局は、週末に同国で3種類目となる新型コロナワクチンを承認した。先行するワクチンは2回接種しなければならず、冷凍輸送が必要なのに対し、今回のワクチンは1回接種型で通常の冷蔵保管が可能である。ワクチン開発企業が3月の供給目標を引き上げたことで、今後数週間で米国でのワクチン接種ペースは大幅に速まる見通しだ。また米国の新型コロナ感染者の入院者数は減少傾向にあり、現在は1月6日に記録したピークを62%下回っている。フランスとドイツでもワクチン接種のペースは徐々にではあるが確実に速まっており、このまま進めば、我々の予想通り、高リスクグループへのワクチン接種は6月までに完了する見通しである。
強い経済指標。米供給管理協会(ISM)が発表した2月の製造業景況指数は予想を上回る60.8と、2018年2月以来の高水準となった。1月は58.7だった。新規受注、生産、雇用、輸出受注の項目すべてで改善が見られた。仕入価格は1月の82.1から86に上昇し、2008年7月以来の高水準に達しており、サプライチェーンの価格上昇圧力の兆候は依然として明らかだ。
利回り低下。先週は米国債利回りが急上昇したことを受け、株式市場全体が下落し、ハイテクのグロース株から景気敏感株へのローテーションが生じた。米10年国債利回りは2月25日に13bp上昇した後、26日に10bp低下し、3月1日に2bpと小幅に上昇した。またオーストラリア準備銀行(RBA)が債券購入規模を拡大して利回り上昇に対処し、その結果利回りが22bp低下したことも投資家に好感された模様だ。
今後の見通し
前回のCIO Alert (2月25日付)で、先週の株価急落はボラティリティの急上昇によるものであり、市場見通しにおけるファンダメンタルズの変化によるものではないと指摘した。1日の株式市場の反発は、我々の見解を裏付けている。先日発行したマンスリーレター3 月号「スパイク列」の中で、新型コロナの感染状況、景気刺激策、インフレ率などの主要な要因が大きく変化すると、相場の大幅な変動につながると述べた。1日の株式市場の上昇からは、こうした様々な要因が複合的にプラスに影響すれば、市場は急反発しうることが示された。
投資家の間に不安を広める要因となったのは、先週の米国国債利回りの上昇のペースであり、利回りの水準ではないとの見方を我々は維持している。株式市場の上昇は景気回復を見込む「リフレトレード」の増加を反映したものであり、債券利回りの上昇により株式の上昇相場が腰折れすることはないと考える。米国国債の実質利回りは、1日は -0.74%と横ばいにとどまったが、上昇基調にある。利回り上昇の理由は、量的緩和縮小の懸念(2013 年のテーパー・タントラムが好例)ではなく、景気刺激策による景気浮揚見通しが強まったためである。米連邦準備理事会(FRB)は、パウエル議長が先週の議会証言でも再確認した通り、当面利上げに転じることはないとの方針を表明している。2015 年以降、株式リスクプレミアムは285~470bpの範囲で推移してきたが、足下でも315 bpと依然その範囲内にあり、利回りが上昇している中においても株式は引き続き債券に対して魅力が高いとの見方をしている。
投資家の取れる行動とは
我々は引き続き、株式市場は景気敏感度の高い市場やセクターを中心に一段の上昇余地があるとみている。投資家にはボラティリティの急上昇を活かしてポジション構築を行うことを勧める。
キャッシュを投資に回す:今回の株式市場の急反発からもわかるように、投資タイミングを計ることは難しい。キャッシュを保有して様子見を続けていると、相場の上昇に取り残されるリスクが生じるため、投資家には余剰キャッシュを投資に回すことを勧める。長期利回りは上昇しているものの、インフレを考慮した実質金利はマイナスであることから、キャッシュを保持していると購買力は実質的に低下することになり、また機会費用も発生する。
ボラティリティを活かす: 先週のような市場の一時的な下落局面、およびそれに伴うボラティリティの急上昇は、キャッシュ保有比率の高い投資家にとって、ドルコスト平均法などを活用してキャッシュを投資に回す機会となる。
景気敏感株に投資する: 1日の市場では明確な傾向は見られなかったものの、テクノロジーなどのグロース銘柄から景気敏感銘柄へのローテーションは今後も続くものと我々は見ている。よって、キャッシュの投資先を検討するにあたっては、経済成長の加速や利回り曲線のスティープ化による恩恵が期待できる銘柄を勧める。具体的には、金融、資本財、エネルギー関連銘柄などが挙げられる。また、グローバル小型株、中国など新興国株式も引き続き推奨する。