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米国株市場、CPI発表を前に下落

9日のS&P500種株価指数は前日比2.4%下落した。10日の5月米消費者物価指数(CPI)の発表を控え、警戒感から保有ポジションを縮小する動きが広がったようだ。

何が起きたか?

9日(木曜日)のS&P500種株価指数は、前日比2.4%下落、前週末比では2.2%下落した。下げは取引時間の終盤に集中した。また、ハイテク銘柄中心のナスダック総合指数は前日比2.75%下落した。9日午後は特段の材料には欠けたことから、10日の5月米消費者物価指数(CPI)の発表を控え、総合インフレ率が再び前年同月比8%を超えることへの警戒感から、投資家の間で保有ポジションを縮小する動きが広がったようだ。米国株式市場がインフレ高止まり懸念から神経質な相場展開になったとすると、債券市場は比較的良好な動きとなり、10年国債利回りは2ベーシスポイント(bp)の上昇にとどまった。

欧州では、欧州中央銀行(ECB)が同日開催された理事会で市場の予想よりもタカ派的な姿勢を示したことを受け、ユーロ・ストックス50指数が1.7%下落した。債券購入を7月1日に終了、その後7月のECB理事会で0.25%の利上げを実施する方針を示したほか、9月にも0.5%の追加利上げを行う可能性を示唆するなど、ゼロ金利からの早期脱却を目指す姿勢が示された。今週3日にはオーストラリア準備銀行が予想外に0.5%の利上げを行っており、インフレ抑制に取り組む中央銀行の姿勢が金融市場を動かす要因となっていることがわかる。もう1つ市場の悪材料となったのは、中国・上海の一部区域が今週末に新型コロナの集団検査を実施するためロックダウン(都市封鎖)を再施行すると発表したことだ。6月1日の解除から間を置かずに再施行となったことで、中国で新型コロナの感染再拡大とそれを受けた感染拡大抑制策のリスクがくすぶっていることを再認識させられた。この発表を受け、安全資産とされる米ドルに資金が流入し、米ドルは0.75%上昇した。

今後の展開

10日に発表される米国の消費者物価指数(CPI)は前月比0.7%の上昇が予想されており、上振れするリスクがある。これを受けて、米連邦準備理事会(FRB)が景気後退を回避しつつ、インフレを抑えられるのかどうかという懸念が高まっている。また、同日に発表されるミシガン大学消費者調査の期待インフレ率が上昇となれば、これもまたFRBへの利上げ圧力を強める。我々は、市場が織り込んでいるように、FRBが今後3回の米連邦公開市場委員会(FOMC)で0.5%ずつ利上げを行うと見込む。だが我々は、インフレ率は年末までには鈍化し始めるものの、中央銀行の目標を依然として大幅に上回ると予想する。CPIに目が向きやすいが、金融政策決定においてFRBが注目している指標は個人消費支出(PCE)物価指数だ。4月のPCEの上昇率は対前月比で0.2%上昇と、2020年11月以来最も小幅な伸びにとどまった。

労働市場や消費支出に関する最近の経済指標が明るい内容だったことから、ここ2週間は短期的な景気後退リスクに対する市場の懸念が薄れている。これは、経済成長率はトレンド近辺かそれを下回る水準まで減速するものの、依然としてプラス圏で推移するという我々の見通しと一致している。だが、インフレで生活費が上昇していることもあり、消費者のセンチメントは弱く、リスクは下振れ方向である。経済成長に対する懸念が和らいでいることから、インフレが市場を左右する主な要因として再び浮上している。そのことは、5月のCPI発表前に株式と債券が共に下落したことからも明らかだ。仮にCPIが上振れすれば、6月14~15日に開催される次回FOMC会合で、FRBがタカ派対応を迫られる可能性があるためだ。

多くの主要先進国の中央銀行がインフレ抑制に向けて積極的な金融政策を講じている環境では、リスク資産は引き続き不安定となり、上昇基調を維持できない可能性が高い。こうした状況はインフレが低下傾向にあるという明確な兆候が現れるまで続くだろうが、それが確認できるのは今年の終盤になるだろう。また、地政学リスクもくすぶる。ロシアによるウクライナ侵攻が長引く様相を見せており、さらに深刻なエネルギーおよび食料供給の混乱とそれに伴うコモディティ価格の上昇の可能性も高まっている。一方、中国のゼロコロナ政策は、地域を限定した一時的なロックダウンが引き続き経済活動と投資家センチメントの重しとなりうることを意味している。

投資見解

最近の経済動向は、年末の株価が足元より高い水準になるとの我々の予想を裏付けている。だが、いまは足元の変動の激しい相場環境を上手く乗り越えるための投資戦略に注力する時であると考える。

第1に、さらなるボラティリティ拡大に備えることだ。新しい経済データが出るたびに、それがどんなに小さなことでも市場の期待が変化し、相場の大幅な変動をもたらす。投資家には、ドローダウン(大幅下落)を抑制する戦略を検討することを勧める。通貨に関しては、ボラティリティの上昇は余剰キャッシュを使ったリターン上昇を狙う機会と捉える。特に資源国通貨(豪ドル、ニュージーランド・ドル、ノルウェー・クローネ、カナダ・ドル)は魅力的なリスク・リターンを提供すると考える。

第2に、バリュー株への投資を検討すること。総合的にみると、景気後退よりも「インフレ上昇」の可能性の方が高いと考えている。実際、過去を振り返ると、インフレ率が3%を上回る環境下ではバリュー株がアウトパフォームしてきた。我々はバリュー株がグロース株をアウトパフォームすると見込んでおり、特にエネルギーとヘルスケアのセクターを推奨する。

第3に、ポートフォリオの防衛を強化すること。我々はここしばらく、高クオリティ銘柄、高配当銘柄、およびヘルスケア銘柄を推奨してきた。いずれも景気後退時にアウトパフォームし、ポートフォリオの変動を抑えるのに寄与する可能性が高い。低金利およびマイナス金利が数年続いたため、短期デュレーション(残存期間の短い)の投資適格債など債券の一部には投資妙味が徐々に出てきたと考えられ、景気後退シナリオでポートフォリオに耐性を与えるとみている。

第4に、セキュリティの新時代に備えたポジションを構築すること。ウクライナ紛争が続く中で、政府と企業は、エネルギー、サイバー、国防、食料供給などの面で、セキュリティ(安全保障)の新時代への対応を進めている。短期的には、食料安全保障とエネルギー安全保障に注目が集まった結果、さまざまなコモディティ市場が逼迫している。この動きは今後数カ月間の原材料価格の上昇を支えるだろう。長期的には、この新時代には自動化とロボティクス、脱炭素、サイバーセキュリティ、農産物の収穫量拡大などの需要が高まるとみている。

第5に、オルタナティブ資産で分散投資を図ること。どのようなシナリオが実現してもポートフォリオの質の向上に役立つような投資資産はそう多くはない。だが、オルタナティブ資産への分散投資はその1つと考える。インフラストラクチャー、不動産、プライベート市場などは、ポートフォリオのインフレ耐性を高める効果が期待できる。また、ヘッジファンド戦略の中には、景気後退シナリオで優れたパフォーマンスを上げ、株式と債券の相関性が高まった場合にはポートフォリオのボラティリティの抑制に寄与できるものもある。

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本稿は、UBS AGが作成した“CIO Alert: Stocks fall ahead of CPI data”(2022年6月10日付)を翻訳・編集した日本語版として2022年6月10日付でリリースしたものです。本レポートの末尾に掲載されている「免責事項と開示事項」は大変重要ですので是非ご覧ください。過去の実績は将来の運用成果等の指標とはなりません。本レポートに記載されている市場価格は、各主要取引所の終値に基づいています。これは本レポート中の全ての図表にも適用されます。
Mark Haefele

最高投資責任者
UBS Global Wealth Management

Mark Haefele

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プリンストン大学で学士号、ハーバード大学で修士号と博士号を取得。フルブライト奨学生として、オーストラリア国立大学で修士号を取得。ソニック・キャピタルの共同創立者および共同ファンドマネジャー、マトリックス・キャピタル・マネジメントのマネージング・ディレクターを務め、チーフ・インベストメント・オフィスが設立された2011年に、インベストメント・ヘッドとしてUBSに入社。

ハーバード大学にて講師および学部長代理を歴任。市場動向ならびにポートフォリオ管理に関するハフェルの見解は、CNBC、Bloombergをはじめグローバルなメディアで定期的に取り上げられている。

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