アジア太平洋地域への投資– 2024年の見通し

アジアのニューノーマル

世界経済におけるアジアの影響力ははますます高まっている。しかしそれは同時に、アジアが以前よりもグローバルなリスクの影響を受けやすくなっているということでもある。

2020年代に入ってから数年の間に著しい変化が起きた。新型コロナウイルスの世界的な感染拡大、紛争、急激なインフレ、未曽有の政策金利の引き締め、エネルギー不足、貿易摩擦、革新的な技術進歩などさまざまな変化の中で、アジアは重要な役割を果たしてきた。

その理由の大半は、アジア諸国・地域全体の存在感が増したことにある。世界の経済成長、中間所得層の人口、エネルギー消費、外国直接投資(FDI)の流入額、特許許可件数のおよそ半分をアジアが占めており、世界経済における影響力がますます高まっていることがわかる。しかしそれは、アジアの経済や市場に機会をもたらす一方で、アジアが以前よりもグローバルなリスクの影響を受けやすくなっているということでもある。

2024年には、アジア自体も大きな移行期に入る。中国経済は成長源が変わろうとしている。経済成長と資本の中心は、中国から若い労働力をもつ南アジア・東南アジアの新興国へと移行しつつある。貿易はグローバル化から地域化(リージョナリゼーション)へ、地政学は二国間対立から多極化へと変容してきている。

こうしたメガトレンドは数十年単位で継続するものだが、足元でその影響力が増しており、その過程で機会と課題を生み出している。アジアは今「ニューノーマル(新常態)」を迎えている。そこには、投資家にとって、これまでとは大きく異なる成長、機会、そしてリスクが複合的に潜在している。

中国の「バージョン3.0」とその課題

変化の最前線にあるのは中国の進化である。2000年代初めに世界の工場として台頭した時期が「バージョン1.0」、その後世界金融危機を受けて、負債とインフラ投資を膨らませ、デジタル化を加速させた時期が「バージョン2.0」だとすると、現在は「バージョン3.0」が進行しているといえる。中国の成長源は、不動産や付加価値の低い製造業から、大量消費、グリーン経済への転換、ハイテク分野のイノベーションという「新しい世界」の3本柱へ移ろうとしている。

とはいえ、2023年に起こった不動産および負債問題から明らかなように、こうした移行は容易ではないだろう。今後5~10年間は潜在GDP成長率が4~4.5%に鈍化する可能性があり、短期的には景気の変動が激しい状況が続くとみている。しかし、政策支援がこうした変動を軽減できるかもしれない。例えば、楽観的シナリオでは、現在行われている金融緩和政策が2024年のGDP成長率を5%近辺まで押し上げるとみている。

変化する力関係

地政学的情勢もアジアの力関係を変化させるだろう。2024年は、GDP上位20カ国のうち、半数近くで首脳選挙が実施され、こうした国々は世界のGDPの4割超を占める。アジアでは台湾、インド、韓国、インドネシア、その他の地域でも米国、英国などで選挙が行われる。その結果が、グローバルサウスといった新興国と先進国の関係に影響を及ぼす可能性がある。

グローバル化の変容も、アジアに変化をもたらす要因となっている。米国のインフレ抑制法(IRA)やCHIPS・科学法などの産業政策によって、サプライチェーンや資本の流れは逆に地域化へと向かっている。中国は、西側諸国による貿易規制の対策として、南アジアおよび東南アジアに対するFDIを10年前の4倍に拡大させており、南・東南アジアはその恩恵を大きく受けている。しかし、こうした動きは同時に、非効率な投資、政府債務の拡大、インフレ圧力の上昇、戦略的同盟の変化などをも招いている。

アジアの経済成長の中心も変わりつつある。インドは2024年に世界の主要国で最も急成長を遂げ、2030年までに世界第3位の経済大国になると予想されている。一方、6億7,800万人の人口ボーナス(生産年齢人口の割合が高い状態)を誇る東南アジアでは、中間所得層の急拡大が示唆されている。また失われた30年を経て、賃金の伸びと持続的な物価上昇が見え始めている日本は、2024年に先進国で唯一、潜在成長率を上回る経済成長を示す可能性が高い。当面は中国がアジア最大のGDP大国の地位を維持するとみているが、中国以外の経済成長圏にも新たに注目が集まりつつある。

大企業ほど有利に

過去10年がアジアの「アプリ経済」と定義されるならば、これからの約10年は「AI経済」となるだろう。AIの導入は雇用や生産性、インフレ、地政学等、様々な領域にさらに大きな影響をもたらし、ニューエコノミー・セクターへのシフトを一段と加速すると考えられる。しかし、AIは資本集約度が高いことから、業界の中でも先駆者としての優位性と潤沢な資本を有するトップ企業に恩恵が集中するだろう。

グリーン経済への転換についても同じことが言える。気候変動リスクは各地で高まっているが、アジアは世界で最も自然災害を受けやすく、最も脆弱な国々や人々が集まる地域であると言っても過言ではない。また、クリーンエネルギーや再生可能エネルギー発電設備に対する世界の新規投資のうち、アジア地域が半分を占めている。必要な設備投資、研究開発および大幅な戦略変更の準備を着実に進めている大手企業が、低炭素社会への移行における先駆者として台頭すると考えている。

2024年:より本格的な景気回復

こうした長期的なメガトレンドは、徐々に新しい世界を形成するだろう。しかし、その扉を開こうとするアジアには差し迫った懸念もある。実際、2023年には、米連邦準備理事会(FRB)による金融引き締めや、より高くより長い金利上昇、それに伴う米ドル高や原油価格の高止まりといったグローバルなリスクがアジア地域に大きな影響をもたらした。加えて、エルニーニョ関連の天候リスクによる影響は2024年初めまで長引き、それが同地域におけるインフレ上昇や、金融緩和開始の遅れにつながる可能性もある。

しかし我々は、2024年半ばまでに米国経済は鈍化に転じるものの景気後退を回避し、各国中央銀行は政策転換に着手すると予想する。こうした転換が、アジアにおける本格的な景気回復に弾みをつけ、2024年は域内の実質GDP成長率が5%近くに上昇するとみられる。これは、2023年を50ベーシスポイント(bp)程度上回る水準である(世界経済は2024年に同程度減速する見込み)。中国の景気刺激策、緩やかな貿易回復、金融緩和サイクルの開始がアジアの景気回復を下支えするだろう。

2024年にどのようなポジションを組むか?

2024年のアジア株式は2桁のプラスリターンを予想している。押し上げ要因となるのは、有利なバリュエーションと、世界平均の2倍となる1桁後半の高い利益成長(大半はハイテク企業の回復による)である。特にIT、一般消費財、素材および資本財といったセクターは、堅調な業績と魅力的なバリュエーションを兼ね備えていると考える。中国については、好調な業績が見込まれる内需セクター、特に消費財・サービス、グリーンテック(電気自動車)、ハイテク(人工知能(AI)の恩恵を受けるソフトウェア、ハードウェア、主要インターネットポータル)といったセクターに焦点を移す。

中国が世界の経済成長を牽引するという状況に変化が見え始めるなか、インド、インドネシアおよびフィリピンの消費財・サービスセクター、サプライチェーン再編の恩恵を受けるセクター、銀行セクターも選好する。AIの初期の恩恵を受ける銘柄としては、台湾、韓国、日本の大手IT企業だけでなく、ASEANおよびインドのニューエコノミーの主要企業が挙げられる。また、社会変革の機運の高まりとともにESGリーダー企業もアウトパフォームするだろう。テーマ投資としては、アジア地域で特に高クオリティの巨大企業に魅力があると考える。長年の実績、堅調な海外資金流入、強固なファンダメンタルズを備えており、今後、市場の変動が激しい局面でも、MSCIオールカントリー・アジア(日本を除く)指数を引き続きアウトパフォームできる可能性があるためだ。

株式以外に目を向けると、2024年はアジアの投資適格債が1桁後半のリターンを上げるとみている。ただし2024年に投資適格債のリターンを押し上げる最大の要因は金利の低下である可能性が高いため、仮に米10年国債利回りが5.25~5.5%に上昇(債券価格は下落)するような想定外のリスクが発生すれば、アジアの投資適格債のリターンは約3%にとどまるおそれがある。一方、米ドル高が継続すれば、2024年1–3月期(第1四半期)のアジア通貨はボックス圏で推移することが考えられる。しかし同年の第2四半期からは、米国の金融政策の緩和とともに、米ドルがより持続的な下落トレンドに入り、アジアの輸出国通貨は循環的な追い風を受けると予想する。

新たな世界が始まる時、先行きを見通すのは難しくなるものだ。しかし、2024年はアジアで循環的な景気回復がみられるだけでなく、構造的な機会ももたらされると考えており、アジアの資産をバランス型ポートフォリオに組み入れることで、変動の激しい、複雑な移行期をうまく切り抜けることが可能になるだろう。

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本稿はUBS AG Singapore Branch、UBS AG Hong Kong Branch、UBS SuMi TRUST ウェルス・マネジメント株式会社が作成した“Investing in Asia Pacific – Asia Outlook 2024: Asia’s new normal”(2023年11月16日付)の一部を翻訳・編集した日本語版として2023年12月20日付でリリースしたものです。本レポートの末尾に掲載されている「免責事項と開示事項」は大変重要ですので是非ご覧ください。過去の実績は将来の運用成果等の指標とはなりません。本レポートに記載されている市場価格は、各主要取引所の終値に基づいています。これは本レポート中の全ての図表にも適用されます。
Min-Lan Tan

UBSグローバル・ウェルス・マネジメント
アジア太平洋地域チーフ・インベストメント・オフィス責任者

Min-Lan Tan

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2002年にシンガポールにてストラテジストとしてUBSに入社。アジア金融専門誌「アジアマネー」のアナリスト・ランキングで、2003年から2012年まで10年連続で在シンガポール・アナリスト1位。2012年9月よりUBSインベストメント・バンクのマクロ・ストラテジー・リサーチのグローバル・ヘッドを務める。2013年8月、UBSウェルス・マネジメントCIOのアジア太平洋地域ヘッドに就任。UBS以前はメリルリンチに7年勤務し、シンガポール・アジア地域の株式ストラテジスト、東南アジア地域のエコノミスト等を歴任。それ以前には、シンガポール金融通貨庁(MAS)でシニアエコノミストを務める。

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