日本経済

新型コロナワクチン接種の展開と東京オリンピック

緊急事態宣言が3月7日まで延長されたことを踏まえ、我々は2021年1-3月期(第1四半期)の日本の国内総生産(GDP)成長率を前期比マイナス2.5%と予想する。一方、第2四半期については前期比プラス2%以上の力強い回復を見込んでいる。

  • 緊急事態宣言が3月7日まで延長されたことを踏まえ、我々は2021年1-3月期(第1四半期)の日本の国内総生産(GDP)成長率を前期比マイナス2.5%と予想する。一方、第2四半期については前期比プラス2%以上の力強い回復を見込んでいる。東京オリンピックの開催可否は3月に最終判断が下されるとみているが、観客は国内居住者に限定されるかもしれない。
  • 2月中旬から始まるワクチン接種が、日本の消費回復と東京オリンピック開催の鍵を握るだろう。政府のワクチン接種計画に基づき、接種率は6月末までに30%、10月末までに50%に達すると我々は考える。
  • 緊急事態宣言は延長されたものの、2021年は日本経済の正常化の1年になるとみている。株式市場では、今後の正常化から恩恵を受けるセクターや、新型コロナ感染拡大と緊急事態宣言により大きな打撃を受けた業種の回復に注目している。
  • 緊急事態宣言の延長: 昨年11月からの新型コロナウイルス感染再拡大を受けて、日本政府は1月8日から当初2月7日までの予定で、東京と大阪を含む11都府県(日本のGDP全体の60%を占める)に緊急事態宣言を発令した。全国の新規感染者数は2020年末の7,000人から直近では3,000人程度に減少しているが、日本政府は感染者数のさらなる減少を目指して緊急事態宣言を3月7日まで延長すると決定した。減少が明らかな栃木県など一部地域は対象から外す。
  • 経済への影響と政策支援の可能性: 我々は、移動が引き続き30%程度抑制された場合、10都府県を対象とした1カ月の緊急事態宣言の延長で、国内需要はさらに1兆7,000億円(GDPの0.3%)減少すると試算している(図表1参照)。緊急事態宣言の延長を受けて、2020年第4四半期にプラス2.4%に回復したGDP成長率は、2021年第1四半期には前期比マイナス2.5%になるものと予想する。コンセンサスもほぼ同水準の予想である。第1四半期がマイナス成長に落ち込む確率が極めて高いことから、政府は追加経済対策の編成に動くだろう。政策実施までに一定の時間がかかるため目先の効果は薄いとみられるが、企業倒産や解雇等の中 中期的な混乱を回避するものと期待される。またワクチン接種が進むにつれて国内での移動が回復することから、第2四半期のGDPについては前期比2%超の力強い回復を見込む。

図表1 – GPSデータに基づく移動データ

2019年1~2月の平均値からの乖離度(%)

出所:Google、UBS

東京オリンピック: 日本政府は東京オリンピックの開催が最終的に判断される3月までに、新規感染者数をできる限り抑えたい考えだ。自民党幹部は、予定通り7月からオリンピックを開催すると繰り返し述べているが、入国制限の解除は段階的となる見通しであることから、観客は国内居住者に限定されるかもしれない。東京オリンピックが首尾よく開催され、2021年末までに国内での移動が新型コロナ感染拡大前の水準の75%まで回復した場合(現状では30%程度)、2021年の国内需要は、オリンピック開催に伴う消費への直接的な効果(8,000億円程度)を含め、5兆8,000億円(GDPの1.1%)程度の押し上げ効果を及ぼすとみている(図表2参照)。外国人観光客に対する入国制限の緩和ペースにもよるが、外国人旅行者のインバウンド消費も年末までにいくぶん回復が見られるかもしれない。ただし、これについては我々の予想には含めていない。

図表2 – 東京オリンピックと2021年下半期の

国内旅行消費が及ぼす効果

出所:東京都庁、観光庁、UBS

ワクチン接種が牽引: 2月中旬から始まる予定のワクチン接種もまた、東京オリンピック開催の最終判断を後押しするだろう。政府のワクチン接種計画によると、おおよそ7月までに、医療従事者や60歳以上の高齢者を中心に、人口の約45%にワクチンを接種する準備が整う見通しである(図表4参照)。成人・若年層に対する接種は7月~8月ごろまでに開始されるとみられる。報道機関の調査によると30%近くの人がすぐにはワクチンを接種しないと回答していることを踏まえると、ワクチンの接種率は6月末までに人口の30%、10月末までに50%程度と我々は考える。

市場への示唆: 緊急事態宣言は延長されたものの、ワクチン接種の加速に伴い国内での移動が回復するため、2021年は日本経済の正常化の一年になると我々は考える。東京オリンピックの開催は、観客が国内居住者に限定される可能性はあるものの、政府による国内旅行の支援策(旅費の35~50%を補助)の後押しもあり、下期の関連支出を押し上げるとみられる(図表3参照)。我々は、今後の正常化から恩恵を受けるセクターや、新型コロナ感染拡大と緊急事態宣言により大きな打撃を受けた業種の回復に注目している。

図表3 – 財・サービス消費

(2020年1月=100)

出所: Haver、UBS

図表4 – 政府のワクチン接種スケジュール

%は人口における割合

出所: 日本経済新聞、厚生労働省、UBS

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本稿は、UBS Securities Japan Co., Ltd.が作成した“Japanese economy: Japan’s vaccination rollout and Tokyo Olympics”(2021年2月2日付)を翻訳・編集した日本語版として2021年2月4日付でリリースしたものです。本レポートの末尾に掲載されている「免責事項と開示事項」は大変重要ですので是非ご覧ください。過去の実績は将来の運用成果等の指標とはなりません。本レポートに記載されている市場価格は、各主要取引所の終値に基づいています。これは本レポート中の全ての図表にも適用されます。
青木 大樹

UBS SuMi TRUSTウェルス・マネジメント株式会社
チーフ・インベストメント・オフィス 日本地域最高投資責任者(CIO) 兼日本経済担当チーフエコノミスト

青木 大樹

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2016年11月にUBS証券株式会社ウェルス・マネジメント本部チーフ・インベストメント・オフィス日本地域CIOに就任(UBS SuMi TRUSTウェルス・マネジメント株式会社の営業開始に伴い2021年8月に同社に移籍)。以来、日本に関する投資調査(マクロ経済、為替、債券等)及びハウスビューの顧客コミュニケーションを担当。2010年8月、エコノミストとしてUBS証券会社に入社後、経済調査、外国為替を担当。インベストメント・バンクでは、日本経済担当エコノミストとして、インスティテューショナル・インベスター誌による「オールジャパン・リサーチチーム」調査で外資系1位(2016年、2年連続)に選出。
また、テレビ東京「Newsモーニングサテライト」やBSテレ東「日経モーニングプラス」など、各メディアにコメンテーターとして出演。著書に「アベノミクスの真価」(共著、中央経済社、2018年)など。UBS入社以前は、内閣府にて政策企画・経済調査に携わり、2006-2007年の第一次安倍政権時には、政権の中核にて「骨太の方針」の策定を担当。2005年、ブラウン大学大学院 (米国ロードアイランド) にて経済学博士課程単位取得(ABD)。

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