不動産市場

UBSグローバル不動産指数 2023年

過去2年にわたる世界的なインフレの高進と金利の上昇により世界主要金融都市の住宅市場は全般的に不均衡が急速に改善した。「過熱リスク」領域にある都市は、2022年の調査では9都市、今年は2都市のみとなった。

  • 住宅は下落: 大半の調査対象都市では、実質住宅価格が過去4四半期の間に下落した。過去3年にわたり不動産市場が「過熱リスク」領域にあった都市では、不動産価格が平均すると10%下落した。
  • 「過熱リスク」領域の都市は減少: 大半の都市のリスク・スコアは、過去数四半期の間に急激に低下した。チューリッヒと東京では顕著な不均衡が持続している。両都市は住宅ローン金利とインフレ率が比較的低く、市場の混乱が生じなかった。
  • 厳しい融資条件: 大半の市場で住宅ローン金利が2021年の水準から3倍近く跳ね上がったことから、アフォーダビリティ(買いやすさ)が大幅に悪化した。このため、ほとんどの国の家計債務が過去数四半期の間に縮小した。
  • ゲームチェンジャーのインフレ: インフレは不均衡の改善に大きく貢献した。金利上昇により住宅価格に下落圧力がかかった。一方で、インフレは所得と賃料の伸びを下支えした。賃料の伸び率は米国を除く大半の都市で加速し、10年近くの間で最高水準に達した。
  • 反転は時期尚早: 実質住宅価格はさらに下落する余地がある。しかし、多くの都市で住宅が不足しており、金利が低下するとブームが再来する下地が整いつつある。
  • 重力に逆らって上昇: 過去数年にわたり最も人気のある都市は、シンガポール、ドバイ、マイアミであった。海外の需要が旺盛なそうした人気都市では、賃料および販売価格の上昇率が明らかに高い。2年前に比べて住宅価格は40%、賃料は50%も高い。

過熱の沈静化

過去2年にわたる世界的なインフレの高進と金利の上昇により世界主要金融都市の住宅市場はおしなべて不均衡が急速に改善した。「過熱リスク」領域にある都市は、2022年の調査では9都市、今年はチューリッヒと東京の2都市のみとなった。以前そうした領域にあったトロント、フランクフルト、ミュンヘン、香港、バンクーバー、アムステルダム、テルアビブは不均衡が改善し、現在は「割高」領域にある。マイアミ、ジュネーブ、ロサンゼルス、ロンドン、ストックホルム、パリ、シドニーの住宅市場も「割高」領域にある。

ニューヨーク、ボストン、サンフランシスコ、マドリードも不均衡が改善した。これらの住宅市場はミラノ、サンパウロ、ワルシャワと同じように現在は「適正水準」にある。シンガポールとドバイは、地政学リスクが限定的なセーフヘブン(安全な避難場所)としての評判が最近になって賃貸と購入に対する需要を拡大させたが、これらも「適正水準」にある。

幅広い住宅価格の下落
大半の市場で住宅ローン金利が2021年の水準から平均すると3倍近く跳ね上がり、借入費用が大きく上昇したことから、住宅価格は伸び悩んだ。調査対象25都市の名目価格の年間上昇率は1年前に10%と高水準を記録したが、今年については行き詰まりをみせた。足元の実質価格は2022年央の水準に比べて5%低い。おしなべて25都市では、パンデミック期間中に生まれた実質価格の上昇分の大半が消失し、足元は2020年央の水準に再び近づいている。

しかし、金利上昇の住宅価格への影響は、既存の市場の不均衡と一般的な住宅ローンの条件により異なる。昨年のレポートで過熱リスクが最も高かったフランクフルトとトロントは、過去4四半期の間に実質価格が15%下落した。割高なバリュエーションと比較的短期の住宅ローン期間が影響し、ストックホルム、次いでシドニー、ロンドン、バンクーバーの住宅価格にも下落圧力が強くかかった。一方、今のところリスク評価が「適正水準」であるマドリード、ニューヨーク、サンパウロは実質住宅価格が緩やかなペースで引き続き上昇している。

過熱リスクの把握

不動産市場の過熱は繰り返し発生する現象である。過熱という言葉は、資産価格の理論値からの大幅かつ持続的な乖離を意味する。実際に過熱状態かどうかは、急激な価格の下落が起きない限り確かめることはできないが、過去のデータを見ると不動産市場が過熱するパターンがあることがわかる。典型的な兆候として、住宅価格の地域所得や賃料からの乖離、過剰な融資や建設活動等の実体経済の歪みが挙げられる。『UBSグローバル不動産指数』はそうしたパターンに基づいて不動産市場の過熱リスクを評価するものである。同指数は価格調整が起きるか否か、またいつ始まるのかを予測するものではない。マクロ経済モメンタムの変化、投資家センチメントの変化、または大幅な供給拡大が要因となり、住宅価格は下落する可能性がある。

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本稿はUBS Switzerland AG、UBS AG Singapore Branch、UBS AG Hong Kong Branch、 UBS AG London Branch、 UBS Financial Services Inc. (UBS FS)が作成した“UBS Global Real Estate Bubble Index”(2023年9月20日付)を翻訳・編集した日本語版として2023年10月10日付でリリースしたものです。本レポートの末尾に掲載されている「免責事項と開示事項」は大変重要ですので是非ご覧ください。過去の実績は将来の運用成果等の指標とはなりません。本レポートに記載されている市場価格は、各主要取引所の終値に基づいています。これは本レポート中の全ての図表にも適用されます。

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