The Year Ahead, revisited
The Year Ahead, revisited ‐ 現状を確認する
昨年『Year Ahead 2022』を発行後に新たな市場変動要因が浮上したため、直近の動向を踏まえた新たな見通しと投資方針を確認する。
2022.01.27
昨年11月に『Year Ahead 2022』を発行して以来、新たに3つの市場の変動要因が浮上し、金融市場に大きく影響を与えた。
第1に、新型コロナウイルスのオミクロン変異株の出現である。
第2に、市場に広がる金利上昇観測である。
第3に、第3に、地政学的緊張である。
これら直近の動向を考慮に入れたうえで、本レポートでは最新の見通しと投資方針を確認する。
投資アイディア
世界経済の成長から恩恵を受ける勝ち組を買う
今後の見通し
2022年1–3月期(第1四半期)は、新型コロナウイルスのオミクロン変異株の感染拡大が経済成長に冷や水を浴びせる可能性が高い。一方、米連邦準備理事会(FRB)のタカ派コメントを受け、市場は現在、年内4回程度の利上げを織り込んでいる。だが我々は、オミクロン株が経済成長の長期的な妨げとなったり、想定されているFRBの金融政策正常化が企業利益の見通しを押し下げるとは考えていない。
よって我々は、景気敏感株について強気の見方を維持している。
– ユーロ圏:緩和的な金融・財政政策、潜在成長率を上回る国内総生産(GDP)の伸び、大半の地域を上回る企業利益成長、割安なバリュエーションがユーロ圏株式を下支えすると予想する。
– エネルギーおよびコモディティ:ブレント原油は1バレル当たり80~90米ドル(訳注:2月2日に年内見通しを1バレル90~100米ドルに引き上げた)で推移するとみており、これがエネルギー株を後押しするだろう。ウクライナ情勢が緊迫化している中で、エネルギー株とコモディティはいずれも地政学リスクのヘッジとしての役割も期待される。また、個々のコモディティで値動きはまちまちとなる可能性から、アクティブ運用戦略を推奨する。
ディフェンシブな戦略を取り入れる
今後の見通し
市場のボラティリティ(変動率)が高い局面では景気敏感株とディフェンシブ株に対するエクスポージャーのバランスを取ることが重要との姿勢は変えていない。だが、今後は、米国のヘルスケア・セクターが短期的なアウトパフォームをけん引する力は弱まると考える。薬価引き下げ法案の先行きが不透明であることに加え、新型コロナの検査およびワクチン関連企業に対する追い風が弱まれば、足元で堅調なヘルスケア・セクターのパフォーマンスも米国の他セクター並みの水準に減速していくと予想する。したがって、米国ヘルスケア・セクターの投資判断を推奨から中立に引き下げる。
現在、我々が推奨するディフェンシブ戦略は以下の通りである。
– グローバル・ヘルスケア:米国のヘルスケア・セクターのパフォーマンスは米国の他セクター並みの水準に落ち着くと予想しているが、米国以外のヘルスケア・セクターについては強気の見方を変えておらず、よってヘルスケア全体には強気である。米国以外のヘルスケア・セクターは、ディフェンシブな医薬品サブセクターのエクスポージャーが高い。医薬品サブセクターは、米国向けの売上比率が高いため米ドル高が追い風になり、ヘルスケアの他のサブセクターよりも高い利益成長を達成すると考える。
– 高配当株:高配当株に投資することにより安定した収益を確保することができる。金融やエネルギーなど我々が推奨するセクターは高配当株が多い。過去のデータによると、配当のトータル・リターンへの寄与度は、景気回復局面の1年目においては8%に留まるが、景気回復が進むと高まる傾向が見られる。1986年以降、MSCIワールド指数のトータル・リターンにおける配当の寄与度は約26%となっている。
– アセット・アロケーションに対するシステマティック・アプローチ:この戦略では、保有する資産クラスの構成を市場環境に合わせて機動的に調整する。例えば、株式市場の上昇局面では値上がり益を享受でき、下落局面では株式ポジションを削減することでリターンを平準化することができる。
金利上昇に備える
今後の見通し
我々が行ったいくつかの推奨は、金融政策スタンスのタカ派シフトにも比較的うまく対応してきた。よって金利上昇に備える投資アイデアとして、以下の資産へのポジションを追加することを改めて勧める。
– グローバル金融:イールド・カーブのスティープ化、与信の伸びとクレジット・クオリティの向上、貸倒引当金の戻し入れなどが金融セクターの利益に寄与するだろう。
– バリュー株:力強い経済成長とGDP成長率を上回る金利の上昇が追い風になる米国バリュー株の推奨を維持する。また、割高な銘柄と割安な銘柄のバリュエーション格差が依然として大きいユーロ圏のバリュー株にも機会があるとみている。
– シニア・ローン:変動利付資産で、足元の平均利回りは4.4%の水準にある。2022年の景気は、後半に減速するとしても依然堅調な推移が続くと見込まれることから、デフォルト・リスクは抑制されるだろう。実際に金利が上昇しても、変動利付のシニア・ローンは比較的影響を受けにくいだろう。
– ヘッジファンド:債券と株式の相関が比較的高い局面では、ヘッジファンドなども金利リスクの低減策として有効と考えられる。
ハイテク銘柄のボラティリティを捉える
今後の見通し
グロース株は低金利の恩恵を受けており、巨大ハイテク銘柄の中には金利低下で予想株価収益率(PER)が30倍程度に押し上げられたものもある。FRBが金融政策の正常化に着手する中で、ハイテクおよびグロース株は引き続き逆風を受ける公算が大きい。だが、創造的破壊技術やデジタル・トランスフォーメーションを原動力に、長期的な機会は健在である。特に、「ABC技術」への投資を引き続き推奨する。この分野は2020~2025年にかけて売上高が平均10%伸びると予想しており、この間のテクノロジー・セクター全体の伸び率予想(年率1桁台半ばから後半)を上回る。また1株当たり利益(EPS)成長率は年率平均で16%を予想する。
一部の株式はこの数週間ですでに調整局面に入っており、足元の相場下落を生かして長期的なポジションを積み増すことが可能な状況にある。
「非伝統的な」利回りを追求する
今後の見通し
債券利回りは今後も緩やかながら上昇すると見込む。米国10年国債の利回りは6月までに2%に達するという従来の見方を維持する。
クレジット・スプレッドは相対的に縮小しており、債券利回りは上昇基調が続く見通しであることから、伝統的な債券の投資機会は一部に限られると考える。インカム収入を求める投資家には、米シニアローン、プライベート・クレジット、債券のアクティブ投資、高配当株など、「非伝統的な」利回りの源泉の物色を検討することを勧める。
アジア・ハイイールド債については、中国不動産市場のパフォーマンス不振とくすぶる債務問題を考慮し、見通しを中立に変更した。2022年1-3月期のリターンは低水準となる見通しで、マイナスになる可能性もあるとみている。アジア・ハイイールド債の2022年通年のトータル・リターンは4~6%と予想する。
また、足元でボラティリティ(変動率)が高まっていることから、ポートフォリオにディフェンシブな戦略を一部組み入れることを勧める。また、創造的破壊技術関連やエネルギー株、あるいは北海ブレント原油、プラチナ、産業用金属といったコモディティの押し目買いも勧める。
米ドル高に備えたポジショニング
今後の見通し
FRBが金融引き締めを急ぐ姿勢を強めていることを踏まえ、ユーロを非推奨に引き下げ、ユーロ/米ドルが1.10に到達すると予想される時期を12月末から6月末に前倒しした。スイス・フラン高圧力も低減すると予想してスイス・フランの非推奨を維持する。米ドル/スイス・フランの6月末予想は0.96に据え置く。引き続き各国金融政策の乖離による通貨間のリターン格差拡大に注目することを勧める。スイス・フランに対する英ポンドの買い、ユーロに対するノルウェー・クローネの買いなどに妙味があるとみる。
日本円については、実質実効為替レートが過去最低水準に達したことから、日銀は円安による悪影響を警戒しているとみられる。日本円を非推奨から中立に戻す。金については従来の予想を維持する。
カーボン・ネットゼロに向けたポジション
今後の見通し
11月以降のCOP26などのイベントにより、カーボン・ネットゼロへの移行が生み出す投資機会に対する我々の確信度が高まった。
移行への過程においてエネルギー価格の高騰やボラティリティ(変動率)の上昇が見込まれる。よって、コモディティなど伝統的な投資戦略と脱炭素に沿ったテーマ投資戦略を組み合わせるアプローチが、カーボン・ネットゼロに向けたマクロ経済トレンドを乗り切る方法であるとの見方を維持する。当面はそうした戦略が地政学リスクのヘッジとしても機能すると見込まれる。

最高投資責任者
UBS Global Wealth Management
Mark Haefele
さらに詳しく
プリンストン大学で学士号、ハーバード大学で修士号と博士号を取得。フルブライト奨学生として、オーストラリア国立大学で修士号を取得。ソニック・キャピタルの共同創立者および共同ファンドマネジャー、マトリックス・キャピタル・マネジメントのマネージング・ディレクターを務め、チーフ・インベストメント・オフィスが設立された2011年に、インベストメント・ヘッドとしてUBSに入社。
ハーバード大学にて講師および学部長代理を歴任。市場動向ならびにポートフォリオ管理に関するハフェルの見解は、CNBC、Bloombergをはじめグローバルなメディアで定期的に取り上げられている。