本特集は、朝日新聞社メディアビジネス局による特集からの転用・転載です。

2021.03.08

【朝日新聞デジタル特集5】企業オーナーが相続に備えて知っておくべきこと

※掲載の情報は2021年03月08日時点のものです

【朝日新聞デジタル特集5】企業オーナーが相続に備えて知っておくべきこと
Vol.4ではファミリー企業の理念や資産を次世代にスムーズに受け継ぎ、発展させていくうえで何が大事なのかを考察した。今回はそのためにも重要な「相続」について、企業オーナーが知っておくべきことをテーマにする。
はじめに夫の急逝により、居酒屋チェーン「世界の山ちゃん」を突然、受け継ぐことになった株式会社エスワイフード代表取締役の山本久美氏に、UBS SuMi TRUSTウェルス・アドバイザリー株式会社マーケティング部長の莇陽子氏が話を聞く。
株式会社エスワイフード代表取締役 山本久美氏

創業者だった夫の急逝により突然、会社を受け継ぐことに

莇:「世界の山ちゃん」といえば、コショウ辛さがやみつきになる「幻の手羽先」が人気の居酒屋チェーンとして有名です。もともと前会長であり夫の山本重雄さんが1981年に創業されたとのことですが、重雄さんの事業への熱意、取り組みはどのようなものだったのか。山本さんご自身にとってはどのような存在だったのかをお聞かせください。

山本:仕事がとにかく好きな人でしたね。お客様が喜び、楽しんでいただくことだけを考えて商売をしていました。社員に利益追求をうながすことは一切なく、お客様に楽しんでいただこうと、自らマジックやギターを習って披露することもありました。下手でも一生懸命取り組む姿勢に、周囲の人も自然と惹かれていくんです。東日本大震災ではいち早く現地にかけつけ、炊き出しや瓦礫除去のボランティアをし、その後も震災がある度に募金活動をしていました。晩年はお店のお客様だけでなく、世の中のためになることをするのが自分の使命だと考えていたようです。
家ではおだやかな人でした。おっちょこちょいな私がどんなにミスをしても、一度も責められたことがないんです。そういったところは、本当に尊敬していましたね。

莇:愛情深く、情熱をもって仕事に取り組まれていたお人柄だったのですね。2016年、当時会長だった重雄さんが急逝され、山本さんご自身が代表取締役として事業を承継することになります。事業を承継されるまでは専業主婦だったと伺っていますが、そのときの経緯や心境をお聞かせいただけますか。

山本:突然の出来事で、目の前が真っ暗になりました。それまで会社との接点は店舗向けの壁新聞「てばさ記」の作成やイベントで関与することだけ。
前会長から次期社長候補の話は聞いていませんでしたし、私は会社のことが分からないので幹部から社長を選べませんでした。他から優秀な社長に来てもらう方法もありましたが、数字を追うだけの経営者ではユニークな弊社ならではの良さが失われてしまうかもしれません。会長が好きでこの会社で働いてきた社員が、ついていけなくなる心配もありました。
自分や子供のためだけを考えれば、M&Aも考えられましたが、夫がゼロからつくり、育て、多くのお客様から愛されてきたお店を手放して本当にいいのだろうか。そう悩んでいたところ、親しい取引先の方たちから「あなたがやるしかない」と言っていただき、会長を慕って一緒にやってきた幹部も、私がやるなら一緒に頑張ると言ってくれました。
会社がバラバラにならず、社員のみなさんに安心していただくには、とりあえずつなぎとして私がやるのが一番なんだろうと思いました。ただ私は代表取締役には就任しましたが、社長という肩書きは名乗りませんでした。夫を見ていて、社長というのは24時間365日会社のために時間を使える人だと思っていたからです。子供もいて家の仕事もある私には、社長を名乗る資格はないと思ったんです。

自社株式を次世代に上手に受け継ぐための仕組みづくりが大事

莇:経営者が急逝された場合、事業承継はもちろん、残された資産の相続に関しても苦労することが多いと聞きます。相続において困られたこと、初めて知ったことなどはありますか。

山本:当時、私は資産管理にもかかわっておらず夫の給料の額や通帳がどこにあるかも知らなかったんです。所有している株式等についても把握していませんでした。ですから相続税の申告期限である10か月以内に手続きを済ませるのは、本当に大変でした。
前会長の相続においては、相続財産のほとんどが自社株式でした。でも株は無闇に分けてしまうと、後々問題が生じることがあります。そこで株のほとんどを私が相続し、子供たちは現金を相続することにしました。そうしないと子供たちは相続税を払えなかったからです。
しかし現金もある程度残しておかないと、相続時に会社を存続させられなくなる可能性があることをそのとき、初めて知りました。幸いなことに前会長が保険に加入するなどして現金を残してくれていたので、会社を残すことができました。もしそれがなければ、株を売るしかなくなり、会社の経営も大変なことになったと思います。

莇:ご自身の経験からスムーズな事業承継、相続のために大切なことはどんなことだと思いますか。経営者として知っておいたほうがよいこと、大切だと思われる対策を教えてください。

山本:会社の事業承継、相続の課題は、自社株式の部分が非常に大きいと思います。日本では何の対策もしていないと、何代も事業を続けていくことが難しいと感じます。ですから持株会社などを活用し、経営に携わるかは別として、株をオーナー家として次の世代に上手に受け継いでいける仕組みをつくることは大事だと思います。
事業の承継についていえば弊社は昨年9月に社長を任命し、今は私と二人で経営しています。新社長は私の子供ではなく長年、弊社の海外事業に関わってきてくださった方です。私は社長には社員を幸せにできる人間がなるべきだと思っています。また、会社は家族のためにあるわけではありません。資質がないのに会社を継いでも子供も不幸せですし、必ずしもオーナー家がやらなければならないとも思いません。資質のある人を後継者に選ぶことが、オーナーの役割だと思います。

莇:事業承継、相続において専門家や金融機関にはどのようなサポートを期待されますか。

山本:夫が急死したこともあり、元気ではあっても私自身もいつ死を迎えるか分からないという不安をもっています。未成年の子供たちに急にそういったことが降りかかった場合、すごく困ると思います。また、20歳を超えたからといって、すぐに上手に資産を管理し、経営に関しての理解ができるとも限りません。そのような不安があったのですが、信託などを使うことで、私の死後も誰かに管理を任せたり、先延ばしできるという話をうかがい、安心しました。そのような専門的なアドバイスをいただけることはありがたいですね。

モットーはいばらず、欲張らず、どんな人にも素直に謙虚でいること

莇 : 経営者としてモットーとしていること、女性経営者ならではのご苦労などあれば教えてください。

山本:モットーはいばらないこと、欲張らないこと。それが一番だと思います。誰に対しても素直で、謙虚でありたいと常に思っています。
取引先のみなさんにもいつも助けていただいており、会社や仕事では、とくに女性だからといった点で苦労したことはありません。しいていえば家庭と会社の両立が大変なことですね。とくに夫が亡くなったときは、一番下の子供が小学校2年生で、まだまだ手がかかる時期でした。当時は社員が働いているのに自分だけ先に帰るのが、後ろめたい思いもありました。ただ基本的に私は何ごとも最大限の努力はしたうえで、できないことは「できない」と言い、みなさんに助けていただくようにしています。

莇:御社のビジネスの今後の展望についてお聞かせください。

山本:今はコロナの打撃が大きく、弊社でもお店を10店舗以上閉めました。今後も会社を存続し、損失を取り戻すために必死で頑張らなくてはなりません。コロナが落ち着いて、お店が軌道に乗り始めたら、お客様に何らかのかたちでお返しをしたいと考えています。社員のみなさんにも苦労をかけているので、喜んでいただけるようなことをしたいですね。今回、弊社の痛手が大きかったのは、ひとつの業態に頼ってきた点も要因です。今、居酒屋の経営は大変厳しい状況ですが、レストランやカフェの方が持ち堪えていたりします。中長期的には、飲食のなかでも今とは違う業態をつくっていくことを考えています。

莇:最後に同じ立場のファミリー企業の経営者、とくに女性経営者のみなさんに対してメッセージをお願いします。

山本:私は女性経営者として、とくに男性に追いつこう、肩を並べようなどという気持ちはまったくありません。自分ができることをコツコツやるのが一番だと思います。ファミリー企業に関しては、会社全体の成長を考えるなら、自分の家族と同様、社員のみなさんを大切にすることが一番だと思います。私は社員全体を家族のように思っています。私ができることは少ないのですが、社員の姉や母親的存在として、みんなと一緒にこれからも頑張っていきたいと思っています。

莇:本日は貴重なお話しを聞かせていただき、ありがとうございました。

自社株式の経営権と財産権のバランスをいかにとるかが鍵

続いて企業オーナーが知っておくべき相続・事業承継に関する知識について、三井住友信託銀行ウェルス・マネジメント部企業財務コンサルタントの中村順一氏に聞く。

――まずは企業オーナーならではの相続の特徴について教えてください。

企業オーナーの相続の特徴は、相続財産に占める自社株式のウエイトが大きいことです。私がこれまで関わってきた案件では、8~9割超を占めているケースが平均的です。
オーナー保有株式には経営権と財産権の2面性があります。複数の子供がいる場合でも、会社経営の観点からは、経営権つまり議決権を一人の後継者に集約して承継したいと考えます。ところが親としては、子供たちに財産権は公平に分けたいと思います。そのジレンマをいかに調整するのかが難しいところです。実際、自社株式の経営権と財産権のバランスをどう取るかで悩まれている企業オーナーは多いです。

また企業オーナーの事業承継にともなう納税資金は、多くの場合で会社がオーナー保有の自社株式を自己株取得するなどして捻出する必要があります。オーナー家の納税資金のために、会社が蓄積した自己資金を流出させるかたちになるのです。本来、成長分野への投資に充てるはずだった資金をオーナーの事業承継のために使わざるをえないとなると、会社にとっても大きなマイナスとなります。

――企業オーナーの相続は単なる個人の問題ではなく、会社にとっても重要課題なわけですね。

そうなんです。会社全体としての安定株主対策、資本政策に関わるので、会社の事業計画の一貫として考えなくてはなりません。にもかかわらず基本的にはプライベートな話なので、役員には相談しにくいという企業オーナーもいらっしゃいます。側近の方々も、オーナー社長が相続について何も言っていないのに、自分たちのほうから切り出しにくいようです。それで後手後手になっているケースが多く見られます。そのような状態で万が一、オーナー社長に突然、不幸があれば会社も家族も大変なことになってしまいます。

持ち株を資産管理会社に移動し、早いうちから資産対策を

――どれくらいの年齢から、どのような対策をしておく必要があるのでしょうか。

できれば早いに越したことはありません。老舗企業のオーナーの方々などは、自身が相続で苦労したため、次の世代には苦労させたくないと40代くらいから対策を考えられるケースが多いようです。いっぽう自分で起業されたIT企業のオーナーの方々などは、親族に事業承継するより、企業価値を高め、第三者へのM&A売却も含めた承継を考えられている方が少なくありません。

いずれにしろ事業承継や相続対策を進めるうえでは、早い段階で持株会社や資産管理会社を設立し、個人が保有する自社株式を移動しておくことが有効です。もちろん最終的に自社株式の売却を考えているなら、わざわざワンクッションいれる必要はないという考え方もあります。このあたりは企業オーナーの方の考え方次第です。

――資産管理会社を活用した自社株対策についてさらに詳しく教えてください。

自社株評価の対策は株価で評価を下げるか、株数で下げるかのどちらかです。ただ相続対策のために事業会社の株価を下げると、自分以外の株主に大きな影響を与えてしまいます。持株会社や資産管理会社を間に置けば、事業会社の他の株主には影響を与えず、資産管理会社の株式評価を落とすさまざまな対策を取ることができるのです。

資産管理会社に株式を移せば、相続時に分割しやすい財産をつくることもできます。事業会社で議決権がある株やない株などの種類株式を導入するには、全株主の同意が必要で、一人でも反対したらできません。その点、持株会社や資産管理会社なら、無議決権株式などを自由につくれるのです。無議決権株式は必ずしも自分で所有している必要がないので、公益事業を行っている財団法人などに寄付し、オーナーが保有する株数を減らすこともできます。このように資産管理会社を活用して株価を下げたり、株数を減らす対策を行えば、議決権はそのままで、より自由な承継の仕方を選べ、さらに社会貢献もできるのです。

――大切な資産を、社会全体がよりよくなる方向で承継することができるんですね。

はい。三井住友信託銀行は、お客様の事業承継や相続に関しては無償で助言サポートをさせていただいています。その際には、企業オーナーの意向をしっかり、確認することが重要と考えています。まずは事業を次の世代でいかに成長させていくかを考え、そこに合致するようなかたちを議論して副次的に財産評価が下がればなおよい。そのようなかたちを常に模索しています。

例えば、ある中堅企業グループのオーナーが、株価が高いため後継者への承継で悩まれていました。その方にはガバナンス強化と収益力アップの観点から、組織再編税制を適用した合併を提案し、複数の会社の重複業務を集約するかたちでのグループ再編を実施していただきました。その結果、グループ経営が円滑になり、企業価値も向上しました。株価対策も効果的に行えるようになったため、承継時のコストも大幅に抑えられ、大変感謝されました。

信託銀行ならではのトータルソリューションに、グローバルな資産運用サポート力がプラス

――今後は三井住友信託銀行とUBSのウェルス・マネジメント事業の業務提携による新ブランド「UBS SuMi TRUST」により、さらに充実したサポートが受けられるわけですね。

三井住友信託銀行は大正時代に旧財閥をはじめとした富裕層の財産管理を取り扱う信託会社としてスタートし、富裕層の財産管理に関しては長い歴史のなかでのノウハウの蓄積があります。それらを活かし、銀行、信託、不動産等の機能を融合させたトータルソリューションが強みです。また、「信託」専業の会社として、一人ひとりの担当者に、お客さま本位に業務を行う「受託者責任」の精神が根付いています。今回、さらにそこにUBSによる、グローバルなリサーチ体制を活用した強力な資産運用サポート力が加わりました。
お客様からも「UBS SuMi TRUST」に対しては大きな期待をいただいています。お客様に寄り添い、その意向を踏まえたうえで、お客様が気づいていない潜在ニーズを引き出しながらオーダーメードのソリューションを提供していきたいと考えています。

――最後に、3月のセミナーではどのようなお話しを伺えるのか教えてください。

今回、お話しした資産管理会社を活用した場合の対策を、より具体的な事例を通してお話しします。また、2021年度の税制改正でM&A売却に係わる譲渡益課税の繰延制度が加わります。事業承継のレパートリーが広がったわけで、税制改正のポイントも含めて、この制度を活用した資産対策について説明します。なお、2021年度の税制改正には盛り込まれませんでしたが今後、格差是正の観点から財産贈与に対する規制強化の大きな流れがあります。それに対していかに対応していくのか、という点もセミナーでは触れさせていただきたいと思います。

本記事のより詳しい解説や具体的な事例については、セミナー(注) でお伝えいたします。ぜひご参加ください。

(注) 文中のセミナーは2021年3月に実施し、既にご案内は終了しております。他のセミナー案内等をご希望の方は、お問い合わせください。


UBS SuMi TRUSTウェルス・アドバイザリー株式会社(以下、当社)は、三井住友信託銀行株式会社を所属銀行として銀行代理業を行っております。当社は、UBSと三井住友信託銀行の協業の推進やお客様へのご案内を行い、「UBS SuMi TRUST」ブランドの促進をしています。

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