通貨市場
トランプ2.0は米ドルの動きを変えるのか?
過去12カ月間で、市場の不確実性が米ドルを押し上げる効果は通常よりも弱まっている。米国政府の政策決定によって、米国の経済成長に対するリスクが高まっており、FRBは年内に75~100bpの利下げを行うと予想する。
2025.04.09
- 過去12カ月間で、市場の不確実性が米ドルを押し上げる効果は通常よりも弱まっている。
- 米国政府の政策決定によって、米国の経済成長に対するリスクが高まっており、米連邦準備理事会(FRB)は年内に75~100ベーシスポイント(bp)の利下げを行うと予想する。
- 米国経済は新たな関税の影響を大きく受けると予想され、FRBの金融政策は欧州中央銀行(ECB)よりも緩和的になるとみている。ユーロ/米ドルの予想を従来よりユーロ高方向に引き上げる。
- 米ドルからの分散先を探している日本の投資家は、金利の高さの観点からポンドや豪ドルが有力だ。
我々の見解
米国政府による関税の大幅引き上げと最近の米雇用統計は、米国および世界経済、そして市場全体の見通しとリスクを投資家が見直すきっかけになっている。4月2日に発表された関税引き上げは、我々の想定よりも厳しい内容だった。米国は全世界を相手に貿易戦争を繰り広げており、それによって米国経済への圧力は強まるだろう。我々は、米連邦準備理事会(FRB)の利下げ幅が以前の予想よりも拡大し、それが米ドルの下落につながるとみている。米ドルは年間を通じて下落が進むだろう。

投資の観点からは、市場の不確実性に対するヘッジとして、円とスイス・フランの安全通貨としての地位が高まっていると考える。いずれの通貨も、不確実性の高い局面で需要が拡大するだろう。米ドルからの分散先を探している日本の投資家は、金利の高さの観点からポンドや豪ドルが有力だ。ただし、米中対立が激化した場合、豪ドルは中国の景気動向との連動もあり、リスクは残る。
新興国通貨については、関税引き上げで中国経済への圧力が続くとみられるため、引き続き人民元の為替リスクをヘッジすることを勧める。アジア通貨の大半は、関税による逆風にさらされ続けるだろう。アジア諸国の多くが、米国に対して大幅な貿易不均衡を抱えているためだ。
トランプ2.0は米ドルの動きを変えるのか?
米ドルは過去20年の間、市場の不確実性が高まる局面において、特に景気に敏感な新興国通貨に対して上昇する傾向があった。また米ドルには、米国経済が非常に好調な時、あるいは世界経済が低迷している時に上昇し、米国経済の成長が緩やかな時には下落する傾向もある。
米国政府の関税政策で経済と市場の不確実性が高まるなか、問題は米ドルが今後どう動くのかということだが、その答えは状況次第である。
通貨市場では、国や地域特有の要因も作用している。例えば、ドイツの財政拡張計画とマクロ経済データの改善は、リスクセンチメントの悪化がユーロに与える悪影響をすでに一部相殺している。中国も、株式市場を中心に楽観的な地合いとなっていることから、人民元安方向に一気に動くことは少ない。
米ドルの出発点についても考慮する必要がある。米国経済の成長期待の高まりにより、年初には米ドルがとりわけ高い水準に押し上げられていた。しかし、関税をはじめとするトランプ大統領の政策発表により、約2~2.5%とみていた2025年の米国の経済成長は、今では1%を下回ると予想している。関税がさらに引き上げられれば、経済のハードランディング(硬着陸)の可能性が高まり、「米国1強」の構図は揺らぐと考える。
関税の引き上げで米国の消費者の購買力は押し下げられ、不確実性の高まりから米国の企業による投資も減少して、経済成長と労働市場は圧力を受ける可能性がある。一方で、関税はインフレを再燃させる要因にもなりうる。経済成長が鈍化し、インフレも高まるなかで、FRBは難しい判断を迫られるとみられるが、景気減速の兆しが見られれば、従来の予想よりも大幅な利下げを行うと考える。

主要国の中でも特に高い金利を維持していた米国が、中立金利以下まで迅速に利下げを行う必要が出てくると予想される環境では、不確実性の高い局面でも、投資家は米ドルに対して慎重な姿勢を強めるとみられる。我々は、米ドルが今年1年を通じて徐々に下落すると予想してきた。FRBが利下げを加速させる可能性が高まり、米ドルの下落が従来の予想よりも早まっている。
日本の投資家へのインプリケーション
米国は日本からの輸入品に24%の相互関税を課すと発表したが、米国の景気に対する懸念に加え、安全通貨として円が買われたことにより、ドル円は150円から146円近辺まで円高方向に動いた。ドル円は、ネットで大幅なロングポジション(買い持ち)となっている円の利益確定売りなどにより、短期的には148円近辺まで戻す可能性があるが、ファンダメンタルズの観点から見ると、米国の関税に関する最近の動きは、米国の景気懸念の高まりに対して米ドルが無敵ではないことを示している。つまり、米国の経済成長が減速するにつれて、米国と日本の金利差が縮小し、ドル円は年末に向け145円程度を予想する。長期的に円高が進む見通しは依然として低い中、日本の投資家は、円の金利が相対的に低いことから、ー部の高利回り通貨を保有することが有効だと考える。特に、豪ドルまたは英ポンドに分散投資を行うことで、今後12カ月のトータルリターンがプラスになると考える。
