通貨市場

為替見通し:利下げサイクルの始まりに投資機会を見出す

2024年は主要中央銀行が軒並み金融政策を緩和し、米ドルを支える要因が弱まると予想する。これは世界経済の減速懸念が後退し、米国一強の状況ではなくなるとの見通しに基づいている。

  • 2024年は主要中央銀行が軒並み金融政策を緩和し、米ドルを支える要因が弱まると予想する。これは世界経済の減速懸念が後退し、米国一強の状況ではなくなるとの見通しに基づいている。
  • 米ドルは2024年第2四半期にピークをつけ、その後軟化すると予想する。
  • 経済成長の恩恵が見込める高利回り通貨を選好する。具体的には豪ドルを推奨する。一方でスイス・フランは、トータルリターンでアンダーパフォームするとみている。

G10通貨国のインフレ率の鈍化が進んでいることから、主要中央銀行の利下げサイクルが始まると予想される。G10通貨国の大半で経済成長率は1%に向けて収れんし、景気後退または景気過熱のリスクは小さいと考える。また、地政学的緊張は年後半も続くものの、大幅に高まるとはみていない。

通貨市場をみると、我々は今後3カ月と2025年で見通しは変化すると考えており、ここが投資家にとって興味深い投資機会になると考える。今後2~3カ月については、米ドルに対して強気の見通しをもっている。一方、2025年については、米ドルに対してやや弱気の姿勢をとっている。2025年央までに、ユーロ/米ドルは1.13まで、英ポンド/米ドルは1.35まで上昇するとみている。また、米ドル/スイス・フランは0.85まで下落、豪ドル/米ドルは0.70まで上昇すると予想する。米連邦準備理事会(FRB)の年内の利下げ着手が確実となってから、米ドルに対する強気姿勢は弱気へとシフトするだろう。

なぜ米ドルには短期的に強気で、長期的にやや弱気なのか

金融市場は、過去数カ月にわたってリスク・オン・ムードが高まり、大きく上昇した。株式市場は大幅に上昇し、新興国通貨も上昇した。一方、安全通貨であるスイス・フランと日本円は下落した。足元のリスク・オン・ムードが高まったきっかけは、FRBによるいわゆる「FRBプット」(FRBが市場の動揺を抑える発言)だった。パウエルFRB議長は5月の米連邦公開市場委員会(FOMC)会合で、追加利上げの可能性が低いとの認識を示した。そのため市場は、FRBは必要な時に利下げに踏み切り、最終的には市場を支えるとの確信を強めた。

こうしたいわば「保険」が市場で幅広い上昇を促し、ユーロ/米ドルは1.09まで上昇した。しかし、欧州中央銀行(ECB)が6月に利下げに着手し、一方でFRBが年後半の利下げを示唆しなければ、市場は再び調整すると考える。リスク回避の動きになれば、米ドルおよびスイス・フランのような安全通貨が上昇する可能性がある。我々は米ドルの上昇が長くは続かないとみており、2025年の見通しを踏まえたうえで、上昇局面を利用して米ドルのエクスポージャーを削減し、他通貨への分散を図ることを勧める。地政学および経済環境に大きな変化がなければ、2025年前半までは、これまでの3カ月と同様にリスク・オンによる相場上昇が見込まれる。市場でリスク・オン・ムードが広まると、通常は米ドルをはじめ安全通貨に対して弱気の見方が強まり、他のG10通貨には、やや強気の見方が高まる。

リスク・シナリオ

世界的な経済成長が突然加速し、ユーロ圏と英国の輸出が急拡大し、新興国市場で投資が大幅に増加すると、G10通貨(除く米ドル)に対して非常に強気の見方が台頭するだろう。これは我々の基本シナリオではないが、実現する可能性がある楽観シナリオだ。例えば、我々がここ最近中国株式を推奨に引き上げたのは、今後の中国経済が現在よりも良好になるとの見通しによるものだ。

もう1つ重要なリスクは、米大統領選挙である。我々の通貨予想は、バイデン氏もしくはトランプ氏のどちらが勝利しても変わることはない。なぜなら、いずれの大統領も就任からしばらくは財政問題に取り組むと考えられるからだ。米大統領は2期しか務められないため、どちらが選出されても最後の任期となる点が、政策目標に影響する。一部の市場参加者は、トランプ氏が再び大統領になると2016年が再現され、米ドルが大きく上昇すると考えている。しかし、現在と前回には相違点がある。第1に、2016年とは異なり、トランプ氏が大統領選に勝利することは、さほど大きなサプライズにはならない。市場では選挙前に、その可能性がすでに織り込まれている。第2に、いずれの候補にとっても最大の課題は国内問題であり、貿易ではない。2017年には貿易問題への取り組みにより米ドルが下支えされたが、その後米国は自国に有利となるよう貿易規制を変更し、多くの措置を講じたことから、これ以上取り組む必要性は低下した。

もちろん、候補者が国際問題に注力するようであれば、米ドルは下落ではなく上昇する可能性が高まる。新たな紛争が生じ、地政学的緊張が一段と高まる可能性もある。そうなれば、市場はより高いリスクプレミアムを求める。そうした状況下では、米ドルやスイス・フランなど全ての安全通貨が上昇すると見込む(日本円は後述)。

豪ドルを引き続き推奨

豪ドルは5月に、大半の通貨に対して上昇した。今後数カ月も取引レンジが上昇するとみている。そのため我々は豪ドルを引き続き推奨する。年末時点の豪ドル/米ドルの予想は0.68を維持し、2025年6月時点の予想は0.70とする。

豪ドル推奨の理由として3つの要因を挙げる。第1に、オーストラリア国内の景気動向と財政状況が他のG10通貨国に比べて良好であり、豪ドルの追い風となっている。直近の連邦政府と州政府の予算は国内総生産(GDP)の約1.5~2.0%を占め、拡張的な財政スタンスを示唆している。このためコア・インフレ率も高止まりするであろう。その結果、オーストラリア準備銀行(RBA、中央銀行)は2025年2月までは政策金利を据え置き、また利下げサイクルは、同行の過去の実績や他の中央銀行に比べると緩やかなものにとどまると予想する。このため、オーストラリアの相対的に高い金利は今後12カ月にわたり、他のG10通貨に対して豪ドルを引き続き下支えするとみている。

第2に、我々は中国の住宅市場が年後半に安定化し、コモディティの上昇と、地域全体のリスク選好度の高まりを後押しすると予想する。特に不動産市場に対する政策支援の強化が奏功することで、中国経済の回復が期待される。また、コモディティ価格は、足元の供給サイドの制約に加えて世界的な在庫の緩やかな積み増しにより高止まりし、豪ドルを下支えするだろう。

第3に、オーストラリアの交易条件および経常収支の条件が有利なことから、豪ドルは相対的に割安である。

スイス・フラン固有のシナリオ

スイス・フランは過去3カ月の間にユーロおよび米ドルに対して大きく下落した。スイス・フラン安は、スイス国立銀行(SNB)が早期利下げを実施し、インフレ率が他国よりも早く目標レンジに落ち着いたことが一因だ。他にも、FRBが追加利上げの可能性が低いことを示唆したため、市場ではリスク・オン・ムードが高まった。キャリー取引の調達通貨として、スイス・フランと日本円が下落した。通貨先物市場における投機筋のスイス・フランのショート・ポジション(売り持ち)は、極端に高い水準まで積み上がっている。そのため、いずれ過度なポジション水準は修正され、スイス・フランは上昇に転じる可能性がある。

SNBは早期利下げを実施したが、利下げ余地はECBやFRBに比べるとかなり限られる。スイスのユーロ圏および米国に対する足元の金利差は大きく広がっており、スイス・フランは調達通貨として魅力度が非常に高くなっている。しかし今後、金利差は縮小すると考えられる。スイス・フランは、対米ドルでは我々の予想期間にわたって上昇し、対ユーロではレンジ内を推移するとみている。

米ドル/円 – 日銀の6月のタカ派転換を注視

米ドル/円は重要な節目に達したと考える。日本の通貨当局は、円安進行を食い止めるための対応を本格化させた。一方、米国では雇用およびインフレ率が鈍化の兆候をみせている。日本については、植田日銀総裁が5月7日の岸田首相との会談後に、「日銀は政策運営上、最近の円安を注視していく」と述べ、タカ派的な姿勢を強めた。政治的な観点から、日本政府も企業の円安懸念に対して神経をとがらせていると考える。経団連の十倉会長は同日、「150円を超えるのは安すぎる」と発言している。円安の企業への影響に関する最新の調査*では、回答企業の35%が最近の円安は売上高にマイナスの影響を及ぼし、63.9%が利益に悪影響を与えていると回答した。米ドル/円の適正水準については、回答企業の18.9%が「130円以上」と回答したのに対して、50.1%が「110~120円」と回答した。調査先企業は主に労働人口の70%近くを雇用している中小企業であり、回答企業の見方は政府にとって重要である。

現在、市場の焦点は6月14日(FOMC会合の2日後)の日銀金融政策決定会合に移っている。日銀が5月中旬の国債買い入れを減額し、10年国債利回りが1%に向けて上昇することを容認していることから、6月にタカ派に転換する兆候がある。少なくとも植田総裁は、円安容認と受け止められ円安が一段と進行することを避けるため、記者会見での発言には十分注意するだろう。日銀は円安懸念を落ち着かせるため、7月に利上げをし(我々は政策金利0.0~0.1%から0.25%までの利上げを予想)、2025年に2回(各25ベーシスポイント(bp))の追加利上げを行う利上げサイクルを示唆する可能性がある。

日銀のタカ派的な政策バイアスへの転換と、米国の景気減速の兆候を示す経済データの発表により、我々は米ドル/円が下落傾向を辿るという見方を維持する。具体的には、2024年9月が153円(従来:152円)、同年12月が150円(従来:148円)、2025年3月が148円(従来:145円)、同年6月が146円と予想する。以上の予想は、それぞれ従来の予想に比べると下げ幅が縮小している。今後数四半期は、日銀の利上げとFRBの利下げ(9月に着手、四半期毎に25bp)に伴う金利差縮小により米ドル/円への下落圧力が高まると考えるが、一方で足元の投資資金の流出(日本の投資家による国外投資)により同通貨ペアの下落幅は縮小する可能性がある。

*帝国データバンクによる「円安に関する企業の影響アンケート」(2024年5月)

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本稿は、UBS Switzerland AG、UBS AG Singapore Branch、UBS AG Hong Kong BranchおよびUBS AG London Branchが作成した“Currency markets - Currency Forecast Update: Convergence mustn’t be boring”(2024年5月23日付)を翻訳・編集した日本語版として2024年6月3日付でリリースしたものです。本レポートの末尾に掲載されている「免責事項と開示事項」は大変重要ですので是非ご覧ください。過去の実績は将来の運用成果等の指標とはなりません。本レポートに記載されている市場価格は、各主要取引所の終値に基づいています。これは本レポート中の全ての図表にも適用されます。

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