CIO Alert

経済軟着陸への期待から株価上昇

27日のS&P500種株価指数は、前日比2.5%上昇、前週末比では6.6%上昇した。良好なインフレおよび個人消費支出データを受け、経済の軟着陸がまだ可能との見方が再び広がった。

何が起きたか?

27日(金)のS&P500種株価指数は、前日比2.5%上昇、前週末比では6.6%上昇した。同日発表されたインフレおよび個人消費支出データの良好な内容を受け、経済のソフトランディング(軟着陸)がまだ可能であるとの明るい見方が再び広がった。S&P500種は先週まで7週連続安と、2000年のITバブル崩壊後以来の長期下落局面にあったが、このデータを受け、週次ベースの連続下落はいったん落ち着いた。ハイテク銘柄中心のナスダック総合指数は3.3%上昇、週間では6.8%の上昇となった。

前週末の20日(金)以降、市場のセンチメントは好転している。S&P500種の20日の日中最安値は今年1月月初につけた史上最高値からの下げが一時20%を超え、弱気相場入り目前となった。だが大手小売企業2社から予想を上回る好決算が発表されると、消費支出の軟化懸念が和らいだ。

27日に発表された4月の個人消費も前月比0.9%増と、市場予想の0.7%を上回り、3月の数字も上方修正されたことで、市場の楽観的な見方はさらに強まった。だが、一方で、こうした結果から、消費関連市場調査の信頼性に対する不信感も浮上している。消費者信頼感指数は2011年以来の低水準を更新しており、バイデン政権の政策運営への不満による影響が強まっているとみられる。

インフレ関連のデータも同じく良好な内容だった。米連邦準備理事会(FRB)がインフレ指標として重視する個人消費支出(PCE) 総合価格指数は、4月は前月比0.2%上昇と2020年11月以来の低い伸びにとどまり、3月の0.9%からも大幅に低下した。変動の激しい食品とエネルギー価格を除いたコアPCEは0.3%と3カ月連続で同率の伸びだった。前年同月比では4.9%と、昨年12月以来の低さとなった。

インフレ高進がピークアウトしつつあるとの見方が高まる中、市場では、一旦織り込んだFRBの利上げペースを巻き戻す動きもみられる。フェデラルファンド金利先物は足元で、2022年末までに約253ベーシスポイント(bp)の利上げが行われることを織り込んでいる。これに対し週初時点では265bp、5月初めのピーク時には285bpが織り込まれていた。25日には5月3~4日開催分の米連邦公開市場委員会(FOMC)の議事要旨が公開されたが、その中には、今年後半には利上げペースを減速、または一時停止するかもしれないことを示唆する内容が含まれていた。FOMCの「多くの参加者」が、利上げを前倒しで行うことで「今年後半には政策効果を見極めやすくなる」と言及した。

市場のセンチメントが上向いたことで、安全資産とされる米ドルへの資金の流れも逆転した。米ドル指数(DXY)は5月前半に約20年ぶりの水準まで上昇したが、27日の週は1.2%下落し、直近高値から3%低い水準にある。一方、コモディティは上昇しており、ブレント原油価格は2月の高値でその週の取引を終了しており、1バレル当たり120米ドルの水準に近づいている。

今後の展開

先週のポジティブな経済指標は、インフレ率は減速するもののFRBの目標値を上回る高い水準で推移し、経済成長率はトレンドを下回るもののプラス成長を維持し、年末の株価は現在の水準よりも上昇するとの我々の見方に沿うものだった。

だが、1週間の好材料だけをみて最近のボラティリティ(相場変動)が収まると判断するのは時期尚早だ。株価の期待ボラティリティを示すVIX指数は今月前半の35をピークに低下に転じ、27日には25.7まで下げたものの長期平均をまだ超えている。

金利、景気後退、地政学リスクの見通しに関する不透明感は依然として高い。

金利に関する最近の動向は、インフレ率と経済成長率が減速に向かえば、FRBは今年後半には利上げペースを緩められるとの我々の見方と一致している。市場はFRBがインフレを抑制できるとの期待を高めている模様で、10年ブレークイーブン・インフレ率は、今月前半の3.0%近辺から2.6%に低下した。4月の個人消費支出(PCE)も、パンデミックをめぐる供給混乱が緩和され、ベース(対前年比)効果も解消に向かっており、インフレ率はすでにピークを越えたとの我々の予想を裏付けている。だが、労働市場のひっ迫緩和を示すさらなるデータを投資家が確認するまでは、賃金・物価スパイラルへの懸念は続く可能性が高い。新規失業保険申請件数は上昇し始め、頻繁に更新される求人募集の短期データは欠員の減少を示唆し始めた。しかし、アトランタ連銀の「賃金上昇トラッカー」によると、4月の賃金伸び率の中間値(3カ月移動平均)は6%と、前年4月の3.2%から伸びている。

景気後退リスクに関しても、直近の指標は良好な内容となっている。最新の個人消費データを見ると、予想外に1.4%のマイナス成長となった1-3月期(第1四半期)の米国国内総生産(GDP)は、貿易赤字拡大による異常値が主な原因という我々の見方を裏打ちする内容となっている。米国貿易収支は、4月は輸入の減少により財の赤字が1,059億米ドルへと15.9%縮小しており、予想を下回る低成長が今後も続く可能性は低下したとみられる。4月の個人消費支出に関する明るいデータも景気後退懸念を落ち着かせるだろう。しかし、特に物価上昇局面では生活費が増大するため、消費者センチメントは低水準が続く可能性がある。家計は支出をまかなうために貯金を取り崩している模様で、貯蓄率は3月の5%から4月には4.4%へと低下し、2008年9月以来の低水準となった。

最後に、地政学リスクは依然として高い。ロシアによるウクライナ侵攻は紛争が長期化する様相を呈し、エネルギーや食料の供給途絶が深刻化して、コモディティ価格が上昇する可能性が高まっている。欧州連合(EU)欧州委員会のカドリ・シムソン委員(エネルギー担当)は先週、どの国にもロシアのエネルギーを利用できなくなるリスクがあると警告した。ロシアの大手国営ガス会社はすでにポーランド、ブルガリア、フィンランドへの天然ガス供給を停止している。一方中国では、ゼロコロナ政策が引き続き経済活動と投資家心理の重しとなっている。先週、上海では数カ月間続いた行動制限を徐々に緩和する方針が示されたが、北京では感染者数の減少にもかかわらず規制措置が続いている。

投資見解

最近の経済動向は、年末の株価が足元より高い水準になるとの我々の予想を裏付けている。だが、いまは足元の変動の激しい相場環境を上手く乗り越えるための投資戦略に注力する時であると考える。

第1に、さらなるボラティリティ拡大に備えることだ。新しい経済データが出るたびに、それがどんなに小さなことでも市場の期待が変化し、相場の大幅な変動をもたらす。投資家には、ドローダウン(大幅下落)に対処できるような戦略を検討することを勧める。通貨に関しては、ボラティリティの上昇は余剰キャッシュを使ったリターン上昇を狙う機会と捉える。特に資源国通貨(豪ドル、ニュージーランド・ドル、ノルウェー・クローネ、カナダ・ドル)は魅力的なリスク・リターンを提供すると考える。

第2に、バリュー株への投資を検討すること。総合的にみると、景気後退よりも「インフレ上昇」の可能性の方が高いと考えている。実際、過去を振り返ると、インフレ率が3%を上回る環境下ではバリュー株がアウトパフォームしてきた。我々はバリュー株がグロース株をアウトパフォームすると見込んでおり、特にエネルギーとヘルスケアのセクターを推奨する。

第3に、ポートフォリオの防衛を強化すること。我々はここしばらく、高クオリティ銘柄、高配当銘柄、およびヘルスケア銘柄を推奨してきた。いずれも景気後退時にアウトパフォームし、ポートフォリオの変動を抑えるのに寄与する可能性が高い。通貨では米ドルを推奨してきたが、現在はFRBによる利上げサイクルの大半を織り込み済みと考える。低金利およびマイナス金利が数年続いたため、短期デュレーション(残存期間の短い)の投資適格債など債券の一部には投資妙味が徐々に出てきたと考えられ、景気後退シナリオでポートフォリオに耐性を与えるとみている。

第4に、セキュリティーの新時代に備えたポジションを構築すること。ウクライナ紛争が続く中で、政府と企業は、エネルギー、サイバー、国防、食料供給などの面で、セキュリティー(安全保障)の新時代への対応を進めている。短期的には、食料安全保障とエネルギー安全保障に注目が集まった結果、さまざまなコモディティ市場が逼迫している。この動きは今後数カ月間の原材料価格の上昇を支えるだろう。長期的には、この新時代には自動化とロボティクス、脱炭素、サイバーセキュリティー、農産物の収穫量拡大などの需要が高まるとみている。

第5に、オルタナティブ資産で分散投資を図ること。どのようなシナリオが実現してもポートフォリオの質の向上に役立つような投資資産はそう多くはない。だが、オルタナティブ資産への分散投資はその1つと考える。インフラストラクチャー、不動産、プライベート市場などは、ポートフォリオのインフレ耐性を高める効果が期待できる。また、ヘッジファンド戦略の中には、景気後退シナリオで優れたパフォーマンスを上げ、株式と債券の相関性が高まった場合にはポートフォリオのボラティリティの抑制に寄与できるものもある。

全文PDFダウンロード
本稿は、UBS AGが作成した“CIO Alert: Stocks rally on soft landing hopes”(2022年5月29日付)を翻訳・編集した日本語版として2022年5月30日付でリリースしたものです。本レポートの末尾に掲載されている「免責事項と開示事項」は大変重要ですので是非ご覧ください。過去の実績は将来の運用成果等の指標とはなりません。本レポートに記載されている市場価格は、各主要取引所の終値に基づいています。これは本レポート中の全ての図表にも適用されます。
Mark Haefele

最高投資責任者
UBS Global Wealth Management

Mark Haefele

さらに詳しく

プリンストン大学で学士号、ハーバード大学で修士号と博士号を取得。フルブライト奨学生として、オーストラリア国立大学で修士号を取得。ソニック・キャピタルの共同創立者および共同ファンドマネジャー、マトリックス・キャピタル・マネジメントのマネージング・ディレクターを務め、チーフ・インベストメント・オフィスが設立された2011年に、インベストメント・ヘッドとしてUBSに入社。

ハーバード大学にて講師および学部長代理を歴任。市場動向ならびにポートフォリオ管理に関するハフェルの見解は、CNBC、Bloombergをはじめグローバルなメディアで定期的に取り上げられている。

最新CIOレポート

UBSのウェブサイトに遷移します。

(3秒後に自動で遷移します)

×

三井住友信託銀行のウェブサイトに遷移します。

(3秒後に自動で遷移します)

×