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リセッション懸念で株価続落

中央銀行の金融引き締め政策がリセッション(景気後退)を招く恐れがあるとの懸念から、9日(月曜日)のグローバル株式は下落した。

何が起きたか?

中央銀行の金融引き締め政策がリセッション(景気後退)を招く恐れがあるとの懸念から、9日(月曜日)のグローバル株式は下落した。S&P500種株価指数は3.2%安となった。先週も0.2%下落し、2011年以降で最長となる5週連続の下げを記録している。現在は1月初旬につけた過去最高値から約16%低い水準にある。

ハイテクセクターが特に大きく下げ、ナスダック総合指数は4.3%下落した。成長性の高いハイテクセクターは将来利益の現在価値を押し下げる国債利回りの上昇への感応度が高い。ユーロ・ストックス50指数は2.8%安、ハンセン指数は3.8%安、東証株価指数(TOPIX)は2%安で取引を終えた。ビットコインは8.2%下落し、昨年11月に記録した過去最高値から50%以上値を下げている。

米国10年国債利回りは日中取引時間中に一時3.2%をつける場面もあり、その後3.04%まで押し戻されたが、4月初めの約2.4%からは急上昇している。米国5年国債利回りは、株価下落と米連邦準備理事会(FRB)の金融引き締め懸念が広がっていた2018年後半の水準を超え、2008年以降の最高水準に達した。

9日のこうした市場の動きは、利回り上昇、FRBが先週決定した50ベーシスポイント(bp)の利上げ、パンデミック後の労働者の市場回帰ペースが減速している可能性を示唆する6日発表の雇用統計等を投資家が織り込む展開が続いていることを示唆している。6日に発表された非農業部門雇用統計では、4月の労働参加率が3月の62.4%から62.2%に低下した。労働参加率の持続的な低下は市場にマイナスとなる。賃金上昇圧力が高まり、FRBが目指す経済のソフトランディング(軟着陸)達成が難しくなるからだ。

また、世界の政治・経済情勢も、経済成長とインフレに対する不安を高めた。ロシアのプーチン大統領は戦勝記念日のスピーチで、ウクライナ侵攻をナチスとの闘いになぞらえた。欧州連合(EU)は全加盟国によるロシア産原油禁輸措置を提案しているが、ハンガリーなどの反対により議論が停滞しており、エネルギー価格が激しく変動する状況が続いている。報道によると、直近の提案には中欧と東欧の数カ国に時間的猶予を与える案が盛り込まれている。一部の国に時間的猶予を与えたとしても、影響は限定的となろう。ロシアからのエネルギー供給のさらなる混乱は市場にとって引き続きリスクである。

さらに、投資家は、中国のゼロコロナ政策継続がサプライチェーンに与える悪影響について懸念を強めている。

今後の展開

経済成長は今後1年間はプラスを維持し、インフレ率は緩和するとの我々の基本シナリオは変わらない。

4月の米国消費者物価指数(CPI)が11日(水曜日)に発表されるが、エコノミストの間では昨年9月以来初めて減速の兆しが表れるものと予想されている。ロイターの調査によると、前年同月比では3月の8.5%から8.1%へ、前月比では1.2%から0.2%への低下が予想されている。パンデミックの影響で急増した財への需要も次第に低下しており、財消費とサービス消費のバランスは正常化しはじめている。インフレ情勢については単一データからは判断できないが、今後は正常化した経済をパンデミック下のロックダウン等で低迷していた経済と比較した数値ではなくなるため、昨年度の数字が低すぎるベース効果が徐々に剥落しインフレ率の伸びは落ち着いてくるだろう。

今後数カ月でインフレ率が低下すれば、FRBの金融引き締めペースに対する懸念も和らぐだろう。市場はすでにFRBの急ピッチの利上げを急速に織り込んでおり、足元の先物金利は年内に約270bpの利上げを示唆している。

一方、消費需要は依然として旺盛な見通しだ。4月の米国非農業部門雇用者数は42.8万人増と力強い伸びとなった。失業率は前月と変わらず3.6%と低い水準だった。平均時給の伸びは前年同月比5.5%とまだインフレ率に追いついておらず、これは需要にはマイナス要因となるが、雇用の安定性は高い。また、企業の間に従業員削減の動きもほとんど見られない。そのため、消費者が消費を削減し予防的に貯蓄を積み上げる可能性は低いといえる。

最後に、米国企業の1-3月期決算は、一部大手が市場予想を下回ったものの、総じて底堅い業績を示している。現時点でS&P500種企業のほぼ90%が決算発表を終え、そのうち78%が事前の業績予想を上回った。業績上振れ比率は過去5年平均の75%を若干上回った。業績下振れ企業は一部のセクターに集中した。半導体のサプライチェーン問題、パンデミック巣ごもり需要で恩恵を受けていた分野からの消費のシフト、ITビジネスの競争激化の影響を受けたセクターなどだ。利益率の低下や需要の減退を示唆する兆候には引き続き注視していくが、2022年通期のEPS(1株当たり利益)成長率は10%との見通しを維持する。

投資見解

この先インフレ率が低下し、成長は持続すると予想されるが、主要経済指標や債券市場が大きく変動する中、投資家は株価ボラティリティ(変動性)のさらなる上昇に備える必要があると考える。高インフレ率の環境下で堅調なパフォーマンスが見込まれる以下の投資行動を勧める。

バリュー株に投資する。相対的にバリュエーションの低い銘柄(バリュー株)は、実質金利の上昇の恩恵を受けやすい。1975年以降、インフレ率が3%を超える局面では、バリュー株はグロース株をアウトパフォームしてきた。実際、米国では9日、バリュー株がグロース株を約1.3ポイント、アウトパフォームしている。長年のアンダーパフォームによりバリュー株への配分が低下している投資家には、グローバル・エネルギー株や英国株式など、バリュー株への長期ポジションを積み増すことを勧める。9日のエネルギー株は原油価格下落に連れて値を下げたが、年初来では市場全体の指数が14.5%下落しているのに対し、MSCIワールド・エネルギー指数は同35%上昇している。英国のFTSE100指数も年初来の下落率は2.3%にとどまり、他市場をアウトパフォームしている。

ポートフォリオのヘッジを強化する。過去を振り返ってみると、インフレ時にはコモディティ全般のパフォーマンスが好調に推移している。また、足元で高まる供給混乱リスクを考えると、コモディティへの投資は地政学リスクのヘッジとしても効果的な手段である。コモディティ(およびエネルギー株)は、年初来でプラスのリターンを挙げている数少ない資産クラスである。

短期的には、米ドルも引き続きポートフォリオの効果的なヘッジとして機能するだろう。安全資産への資金流入に加え、米国の実質金利の上昇、さらには米国がエネルギーの純輸出国であることなどからも、米ドルの需要が高まることが見込まれる。米ドル指数(DXY)は年初来で8%上昇、4月月初以降では5.5%と急上昇している。

ヘルスケアのようなディフェンシブな株式セクターを追加することで、ポートフォリオ全体のボラティリティを低減することも可能である。医薬品銘柄は伝統的にリスクオフ局面で比較的底堅く推移するうえ、バリュエーションにも割安感がある。

金利上昇と高インフレ率に対処する。債券では、ここ数週間で、金利上昇により投資妙味のある分野が出現している。環境・社会・ガバナンス(ESG)に注力するハイイールド債に投資機会があるとみる。中小企業向け第1順位抵当権付ローンなど、プライベート・クレジットの分野も引き続き推奨する。

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本稿は、UBS AGが作成した“CIO Alert: Equity sell-off continues”(2022年5月9日付)を翻訳・編集した日本語版として2022年5月10日付でリリースしたものです。本レポートの末尾に掲載されている「免責事項と開示事項」は大変重要ですので是非ご覧ください。過去の実績は将来の運用成果等の指標とはなりません。本レポートに記載されている市場価格は、各主要取引所の終値に基づいています。これは本レポート中の全ての図表にも適用されます。
Mark Haefele

最高投資責任者
UBS Global Wealth Management

Mark Haefele

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プリンストン大学で学士号、ハーバード大学で修士号と博士号を取得。フルブライト奨学生として、オーストラリア国立大学で修士号を取得。ソニック・キャピタルの共同創立者および共同ファンドマネジャー、マトリックス・キャピタル・マネジメントのマネージング・ディレクターを務め、チーフ・インベストメント・オフィスが設立された2011年に、インベストメント・ヘッドとしてUBSに入社。

ハーバード大学にて講師および学部長代理を歴任。市場動向ならびにポートフォリオ管理に関するハフェルの見解は、CNBC、Bloombergをはじめグローバルなメディアで定期的に取り上げられている。

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