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株価大幅反落、景気後退不安で揺れ動く投資家心理

S&P500種株価指数は5日、3.6%下落し前日の3%の上昇分を上回る反落となった。経済の軟着陸への安心感から4日に大幅上昇したが、その後投資家心理は再び懐疑的に転じた。

何が起きたか?

S&P500種株価指数は5日(木)、3.6%下落し、前日の3%の上昇分を上回る反落となった。債券利回りも再び上昇に転じた。米国10年国債の利回りは前日比10ベーシスポイント(bp)上昇の3.04%となり、2018年以来の高水準となった。10年物物価連動国債(TIPS)の利回りも11bp上昇した。米国住宅ローン金利は2009年8月以来の高水準に達した。フレディ・マック(米連邦住宅金融抵当公庫)によると、30年ローンの平均金利は先週の5.1%から足元5.27%に上昇した。

ナスダック総合指数は5%下落した。S&P500種はハイテク関連株や一般消費財株が下げを主導した。利回り上昇で米ドルも買われ、米ドル指数(DXY)は1%上昇した。

利回り上昇は金利の影響を受けやすいグロース株の下押し要因となり、また電子商取引(EC)企業の1₋3月期(第1四半期)決算も振るわず、グロース株セクターの中ではハイテク銘柄が最も値を下げた。某EC大手2社は、予想を下回る売上高見通しを発表したため、それぞれ16.8%と11.7%値を下げた。

パウエル米連邦準備理事会(FRB)議長は4日、金融政策は鈍器である(効果に手術のような正確さはない)と認めたが、FRBは堅調な米国経済をソフトランディング(軟着陸)に導くことは可能との自信を示した。5日には、イングランド銀行(中央銀行)が景気後退入りを回避できない可能性を示唆したため、英国の主要指数が下落した。イングランド銀行は同日、政策金利を0.25%引き上げ、1.0%にすると発表。エネルギー価格の高騰でインフレ率が2桁台に押し上げられるに伴い、英国経済は年内にも景気後退入りの可能性があると警告した。イングランド銀行の警告は他の市場の投資家心理も悪化させた。FRBとイングランド銀行は、インフレ抑制には苦難と経済的な「痛み」を伴うリスクを指摘した。

今後の展開

各国・地域中央銀行は、景気後退に至らない程度にインフレを抑え込むに足る金融引き締め政策を慎重に模索している。市場は新たに発表される情報を元に金融政策の進捗を織り込み直すため、高いボラティリティ(相場の変動)が続きそうだ。

パウエル議長がFRBは経済を軟着陸へ導くことができるとの見解を示したことが市場に安心感を与え、米国株式市場は4日に一時大幅上昇したが、投資家心理は再び懐疑的に転じた。インフレは緩和するとの我々の見方を明確に裏付けるようなデータが出てくるまでは、FRBの金融引き締め強化が要因となる景気後退に対する懸念は高い状況が続くだろう。株式市場の期待ボラティリティを示すVIX指数(恐怖指数)は、5日は30を超える水準に戻った。

市場の注目は6日発表の米国雇用統計と来週発表の4月の消費者物価指数に移っている。雇用市場がひっ迫していることから賃金に上昇圧力がかかっており、インフレ率をFRBの長期目標である2%に引き下げるには賃金の伸びを抑制しなければならないとFRBはみている。4日に発表された4月の米ISM非製造業景気指数の仕入れ価格を示す指数は過去最高を記録し、インフレ率はまだピークを迎えていないとの懸念に拍車をかけた。しかしその一方で、一部の財については、これまで急激に上昇してきた価格が下落に転じる動きも見られ、またここ1年間の物価上昇を背景に、ベース効果も今後数カ月で前年比インフレ率の伸びを抑制しそうだ。これが現実となれば、全体的なインフレ率の低下に寄与し、FRBは中立金利をはるかに上回る水準にまで政策金利を引き上げる必要がなくなるだろう。

米国企業決算では、一部のセクターで予想を下回る決算内容となった。これらのセクターは、半導体のサプライチェーン問題、パンデミック巣ごもり需要で恩恵を受けていた分野からの消費のシフト、ITビジネスの競争激化の影響を受けたセクターだ。

概して、第1四半期の決算は堅調な需要とコストの価格転嫁が功を奏し、企業が利益率を堅持していることを示している。S&P 500企業の4分の3が既に決算発表を終えており、その内80%が利益予想を上回り、しかも上振れ幅は全体で5.5%になっている。企業利益は経済の実質成長率よりも名目成長率と相関している。2022年の1株当たり利益(EPS)成長率の予想を10%増で維持するも、利益率の低下と需要の減速の兆候に引き続き注視する。

FRBはインフレを抑制し経済は景気後退に陥ることなく成長させることができると確信している。相場は大きく揺れ動いているが、我々はそのFRBの見解に反したポートフォリオを構築する時期ではないと考える。エネルギー価格の高騰の影響を強く受ける欧州経済へのダメージは大きくなるだろう。しかし、エネルギーの純輸出国である米国への影響は限定的である。家計と企業のバランスシートは健全で、賃金は上昇している。よって、投資家には、景気後退がすぐに到来する可能性に注目するよりも現実的なインフレに備えたポートフォリオの構築を引き続き勧める。

投資見解

パウエル議長が指摘するように、「手術のように正確な金融政策手段」はないため、ボラティリティが高まり、多くの投資家に苦痛を与えている。こうした状況下、投資家には、UBS Wealth Wayの考え方に則った自身の投資計画を着実に遂行することの重要さを引き続き強調したい。特に、ポートフォリオの中で今後3~5年の支出分を賄う流動性戦略を確保しておくことで、投資家は残りの資産を長期的な資産形成に充て、ボラティリティが高い相場環境において、強制売りや感情的な投資行動に走るリスクを減らすことができる。

我々の基本シナリオである、インフレ率の低下と景気後退のない緩やかな経済成長見通しに基づき、我々は引き続き高インフレ率の環境下で堅調なパフォーマンスが見込まれる以下の投資行動を勧める。

バリュー株に投資する。実質金利の上昇は、バリュー株に有利になる傾向がある。1975年以来、インフレ率が3%を超える局面では、グロース株をアウトパフォームしてきた。実際に、米国ではバリュー株がグロース株を1ポイント、アウトパフォームしている。長年のアンダーパフォームによりバリュー株への配分が低下している投資家には、バリュー株への長期ポジション、具体的にはグローバル・エネルギー株や英国のバリュー株を積み増すことを勧める。

ポートフォリオのヘッジを強化する。過去を振り返ってみると、インフレ時にはコモディティ全般のパフォーマンスが好調に推移しており、足元で高まる供給混乱リスクを考えると、コモディティへの投資は地政学リスクのヘッジとしても効果的な手段である。コモディティとエネルギー株のように、年初来でプラスのリターンを挙げている資産クラスは少ない。

また短期的には、米ドルも引き続きポートフォリオの効果的なヘッジとして機能するだろう。地政学リスクや経済の先行き不透明感の高まりによる安全資産への資金流入に加え、米国の実質金利の上昇、さらには米国がエネルギーの純輸出国であることなどからも、米ドルの需要が高まることが見込まれる。

ヘルスケアのようなディフェンシブな株式セクターを追加することで、全体的なボラティリティを低減することができる。伝統的に医薬品はリスクオフ局面では比較的底堅く推移するうえ、バリュエーションも割安である。

金利上昇と高インフレ率に対処する。債券では、ここ数週間で、金利上昇により投資妙味のある分野が出現している。環境・社会・ガバナンス(ESG)に注力するハイイールド債に投資機会があるとみる。中小企業向け第1順位抵当権付ローンなど、プライベート・クレジットの分野も引き続き推奨する。

UBS Wealth Wayは、お客様がUBS Financial Services Inc.、およびクライアント・アドバイザー(お客様担当)とともに、様々な時間軸において、それぞれのニーズと目標を明確にし、実現する上での指針となるLiquidity. Longevity. Legacy.戦略(流動性戦略、老後戦略、資産承継戦略)を組み入れた考え方です。この考え方は、資産構築あるいは何らかの投資利益の達成を約束または保証するものではありません。すべての投資商品は、元本の全額を失うリスクを含む損失リスクを伴います。

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本稿は、UBS AGが作成した“Post-Fed rally evaporates”(2022年5月5日付)を翻訳・編集した日本語版として2022年5月6日付でリリースしたものです。本レポートの末尾に掲載されている「免責事項と開示事項」は大変重要ですので是非ご覧ください。過去の実績は将来の運用成果等の指標とはなりません。本レポートに記載されている市場価格は、各主要取引所の終値に基づいています。これは本レポート中の全ての図表にも適用されます。
Mark Haefele

最高投資責任者
UBS Global Wealth Management

Mark Haefele

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プリンストン大学で学士号、ハーバード大学で修士号と博士号を取得。フルブライト奨学生として、オーストラリア国立大学で修士号を取得。ソニック・キャピタルの共同創立者および共同ファンドマネジャー、マトリックス・キャピタル・マネジメントのマネージング・ディレクターを務め、チーフ・インベストメント・オフィスが設立された2011年に、インベストメント・ヘッドとしてUBSに入社。

ハーバード大学にて講師および学部長代理を歴任。市場動向ならびにポートフォリオ管理に関するハフェルの見解は、CNBC、Bloombergをはじめグローバルなメディアで定期的に取り上げられている。

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