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米国株急落、FRB主導の景気後退リスク懸念で

米国株式は4月29日に3.6%下落し、1日の下落幅としては2020年6月以降で最大を記録した。ハイテク株中心のナスダック総合指数は4.2%下げた。

何が起きたか?

米国株式は4月29日(金曜日)に3.6%下落し、1日の下落幅としては2020年6月以降で最大を記録した。ハイテク株中心のナスダック総合指数は4.2%下げた。S&P500種株価指数は4月に8.8%下落し、月間ベースでは2020年3月以降で最悪となった。ナスダック総合指数も月間で13.2%下げ、2008年10月以降で最大の下落率となった。

29日の相場急落は、超大型企業の決算が予想を下回ったこと、賃金上昇を受けた米連邦準備理事会(FRB)の金融引き締め強化が要因となるリセッション(景気後退)の懸念が高まったこと、中国での新型コロナ感染拡大を受けたロックダウン(都市封鎖)措置、ウクライナ危機など、複数の悪材料が背景にあると考える。

28日の取引終了後に発表されたオンライン小売大手の1-3月期決算もセンチメントの重石となった。売上高が上場来最低の伸びにとどまったほか、倉庫運営費・配送費などのコスト増も嫌気された。

また、米国の雇用コスト指数(ECI)もセンチメント悪化に拍車をかけた。2022年1-3月期の賃金上昇率は前四半期比で+1.4%となり、コンセンサス予想を上回るとともに、現在の算出手法が採用された1996年10-12月期以降で最大の上昇率となった。インフレ懸念から債券利回りも上昇した。米2年国債と米10年国債はいずれも29日に約10ベーシスポイント(bp)上昇した。月間の上昇幅は2年債は39bp、10年債は59bpとなった。

今週3~4日に開催される米連邦公開市場委員会(FOMC)で、大方が予想する50bpではなく、75bpの利上げの可能性もありうるとの観測も浮上している。フェデラルファンド(FF)金利先物は現在、年内に280bpを超える利上げを織り込んでおり、米国経済が景気後退に陥らずにこの引き締めペースに耐えることができるか懸念が高まっている。

経済成長をめぐる警戒も高まっている。中国は新型コロナの感染抑制に苦戦しており(週末には北京での追加制限措置が発表された)、欧州ではロシア産石油・ガスの輸出制限措置が経済に及ぼす影響などが懸念されている。

米ドル(DXY指数)は20年ぶりの高値水準に達した後、29日に0.6%下落した。しかし、4月月間では4.7%上昇した。他の中央銀行と比べて速いペースでのFRBの引き締め予想や安全資産需要が米ドル買いを支えた。

今後の展開

4月28日発行のマンスリーレター5月号「インフレに備えたポートフォリオの構築」の中で述べたように、投資家の関心の中心は、FRBが景気後退を引き起こすことなく、インフレ率を引き下げ、経済成長率を潜在成長率に近づける、経済のソフトランディング(軟着陸)に米国を導けるかという点だ。

我々の基本シナリオでは、インフレ率は現在の水準からは低下するが、パンデミック前の水準を上回る状況が続くと考える。2022年の経済成長率は昨年を下回るが、景気後退に陥ることはないだろう。よって、現時点でも将来の可能性にすぎない景気後退よりも、現在の明確なインフレ率の動向に注目したポートフォリオの構築を勧める。

我々は以下の3つの理由から上記の見方を維持する。

FRBの金融引き締めによる年内の景気後退入りの可能性は低い。四半期ベースの雇用コスト指数は、速報性の高い他の賃金指標が示唆する内容を裏付けている。賃金の伸び率は、長期インフレ目標への収斂に必要とされる水準を2ポイント上回っている。しかし、FRBの2%インフレ目標は長期的な平均であり、短期の上限ではない。2024年までにインフレ率が2.5%まで低下するとの合理的な見通しがある限り、インフレ抑制ペースを速めるためにFRBが景気へのブレーキを強化する必要はないと考えられる。

住宅価格の高騰がFRBに金融引き締めの積極化を促す理由の1つであるとの指摘もある。しかし、賃料上昇率指標は当面高い状態が見込まれるものの、賃貸市場指標は遅行性が強く、賃金上昇や住宅の需給ひっ迫による賃料への上昇圧力をまだ織り込んではいない。FRBはこの遅行性を認識しており、速報性の高いデータに賃料上昇圧力緩和の兆しが見て取れる場合は、FRBが対応を急ぐことはないと考える。加えて、住宅ローン金利も2ポイント以上上昇していることから、住宅市場の過熱感は徐々に冷え始めると予想する。ただし、沈静化の兆しはまだ指標には現れていない。

米国企業の業績は総じて堅調。29日に決算を発表したオンライン小売大手など、主要ハイテク企業で予想を下回る決算発表が相次いだ。しかし、現時点でS&P500企業のうち半数以上が決算発表を終えたが、決算内容と業績見通しは総じて良好である。発表を終えた企業のうち70%以上が市場の売上予想を上回り、80%が利益予想を上回っている。合計すると、利益は市場予想を5.5%上振れている。決算の弱さが目立ったのは個人消費関連で、パンデミック期間中の力強い伸びからの反動も一部に見受けられた。一方、企業向けは健闘した。

先行き見通しについては、企業による4-6月期の業績見通しは底堅く、12%近い売上高成長率見通しと10%程度の利益成長率が見込まれる。ただし、コスト上昇圧力による利益率への影響や、供給制約、地政学リスク等による売上高の押し下げにも注視していく。S&P500種のボトムアップによる4-6月期コンセンサス予想は、1-3月期決算シーズンが始まって以降変わっていない。

中国は世界経済への逆風から追い風にシフトする可能性がある。パンデミックに伴う主要都市のロックダウンの影響を踏まえ、我々は中国の今年のGDP成長率予想を4.2%に下方修正した。さらに、一般消費財、コミュニケーション・サービス、資本財セクターの利益成長低下を反映して、MSCI中国の今年通期の利益成長率予想も2ポイント引き下げて11%に変更した。しかし、先週、中国共産党政治局などの中央当局が経済政策による景気支援を強化する方針を明確に示した。これには金融政策の緩和に加え、インフラ投資、不動産セクターの規制緩和、運輸・物流、プラットフォーム企業の「健全な発展」の支援などが含まれる。こうした状況を踏まえ、我々は中国のGDP成長率は4-6月期に底打ちした後、年後半には徐々に回復に向かうと予想する。

慎重な見通しに変わる要因は何か?

インフレ率の低下ペースや米国経済の先行きの底堅さについては不確実性が高い。以下のような要因が現れれば、我々はより慎重な見方をとる。

  1. インフレ率がまだピークを迎えていない兆候。我々は現時点ではインフレ率は3月にピークアウトした可能性があると見ている。
  2. 賃金上昇率の加速を示す指標
  3. 企業がコスト高を価格に転嫁できず、利益率が低下している兆候
  4. ロシアによる欧州への天然ガス供給停止の長期化。天然ガス供給が再開されなければ、ユーロ圏は景気後退に陥ると予想する。

投資見解

我々の基本シナリオであるインフレ率の緩和と緩やかな経済成長見通しに基づき、株式市場はここから年末に向けて上昇すると予想する。しかし、ポートフォリオをアクティブに(機動的に)運用することも重要であり、インフレ高進、金利上昇、ボラティリティの増大という環境下で堅調なパフォーマンスが見込まれる以下の投資行動を勧める。

バリュー株に投資する。高インフレ率と金利上昇の局面では、グロース株が下方圧力を受ける一方、経済および市場環境はバリュー投資に有利になると見込まれる。長年のアンダーパフォームによりバリュー株への配分が低下している投資家には、バリュー株・セクターへの長期ポジション、具体的にはグローバル・エネルギー株や英国のバリュー株を積み増すことを勧める。

金利上昇と高インフレ率に対処する。債券では、金利上昇により投資妙味のある分野が出現している。我々は、高格付債と米国国債の非推奨を取り下げた。ハイイールド債の中では環境・社会・ガバナンス(ESG)に注力する銘柄に投資機会があるとみる。中小企業向け第1順位抵当権付ローンなど、プライベート・クレジットの分野も引き続き推奨する。

ポートフォリオのヘッジを強化する。先行き不透明感が高まる中、ポートフォリオのヘッジを強化することでボラティリティとリスクを低減することが可能だ。過去を振り返ってみると、インフレ時にはコモディティ全般のパフォーマンスが好調に推移しており、足元で高まる供給混乱リスクを考えると、地政学リスクのヘッジとしても効果的な手段である。今後6カ月間でコモディティ指数にはさらに10%程度のトータルリターンの余地があると我々はみている。投資家には特にアクティブ戦略を勧める。

また短期的には、米ドルも引き続きポートフォリオの効果的なヘッジとして機能するだろう。地政学リスクや経済の先行き不透明感の高まりによる安全資産への資金流入に加え、米国の実質金利の上昇、さらには米国がエネルギーの純輸出国であることなどからも、米ドルの需要が高まることが見込まれる。

ヘルスケアなどのディフェンシブな株式セクターを積み増すことも、全体的なボラティリティの引き下げに寄与すると期待される。医薬品セクターは伝統的に低成長局面およびリスクオフの投資環境においても比較的底堅く、株価も現在割安とみている。MSCIオールカントリー医薬品指数の12カ月先の予想株価収益率(PER)は、MSCIオールカントリーワールド指数より14%低い。

投資家それぞれの投資計画 Wealth Way に則った投資を継続する。足元の先行き不透明感の高い環境下、不安に駆られて感情的な投資判断を下してしまうと、投資成果を損ねかねない。UBS Wealth Wayの考え方は、長期的な資産目標の達成に向けて、Liquidity. Longevity. Legacy.戦略(流動性戦略、老後戦略、資産承継戦略)に基づき、市場のボラティリティを俯瞰的に捉え、一人ひとりの状況に応じた投資判断を行う上での指針を提供する。資産運用にこの3つの戦略を組み入れることで、投資家固有の資産形成の目的を理解し、投資目的・目標および期間に合わせて損失を見直すことができる。

先行き不透明感の高い環境下において、流動性戦略(現金、債券など)は、今後3~5年程度の支出を賄える流動性の確保を目的としている。当面の資金ニーズに対応できると判断できれば、市場のボラティリティに惑わされて長期の資産形成に備えた老後戦略資産を売却したりせずに済む。弱気市場を予測することは困難であり、その後の反発の時期を予測することも同じく困難である。「市場が安定したら」買い戻そうと考えて売却のタイミングを計ろうとすると、一時的な評価損ではなく損失を確定することになりかねない。

UBS Wealth Wayは、お客様がUBS Financial Services Inc.、およびクライアント・アドバイザー(お客様担当)とともに、様々な時間軸において、それぞれのニーズと目標を明確にし、実現する上での指針となるLiquidity. Longevity. Legacy.戦略(流動性戦略、老後戦略、資産承継戦略)を組み入れた考え方です。この考え方は、資産構築あるいは何らかの投資利益の達成を約束または保証するものではありません。すべての投資商品は、元本の全額を失うリスクを含む損失リスクを伴います。

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本稿は、UBS AGが作成した“CIO Alert: Equity sell-off gathers momentum”(2022年5月1日付)を翻訳・編集した日本語版として2022年5月2日付でリリースしたものです。本レポートの末尾に掲載されている「免責事項と開示事項」は大変重要ですので是非ご覧ください。過去の実績は将来の運用成果等の指標とはなりません。本レポートに記載されている市場価格は、各主要取引所の終値に基づいています。これは本レポート中の全ての図表にも適用されます。
Mark Haefele

最高投資責任者
UBS Global Wealth Management

Mark Haefele

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プリンストン大学で学士号、ハーバード大学で修士号と博士号を取得。フルブライト奨学生として、オーストラリア国立大学で修士号を取得。ソニック・キャピタルの共同創立者および共同ファンドマネジャー、マトリックス・キャピタル・マネジメントのマネージング・ディレクターを務め、チーフ・インベストメント・オフィスが設立された2011年に、インベストメント・ヘッドとしてUBSに入社。

ハーバード大学にて講師および学部長代理を歴任。市場動向ならびにポートフォリオ管理に関するハフェルの見解は、CNBC、Bloombergをはじめグローバルなメディアで定期的に取り上げられている。

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