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株価急落、引き締め加速懸念で

S&P500種株価指数は22日、金融引き締めペースの加速、中国の景気鈍化、ウクライナ情勢悪化等に対する懸念が高まり、2.8%下落した。

何が起きたか?

S&P500種株価指数は22日(金曜日)、金融引き締めペースの加速、中国の景気鈍化、ウクライナ情勢悪化等に対する投資家の懸念が高まり、2.8%下落した。同指数は3月末から約6%下落している。

相場下落の背景には、米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長が21日、5月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で50ベーシスポイント(bp)の利上げが「検討される」予定であり、米国の労働市場は「持続不可能なほど過熱している」と述べたことがある。この発言でFRBが金融引き締めペースを一段と加速するとの思惑がさらに広がり、先物市場は5月、6月、7月の次回3会合で50bpの利上げが行われる確率をほぼ100%と織り込んだ。年末のフェデラルファンド(FF)金利の市場予想は先週、2.47%から2.83%に上昇し、利上げによる景気後退入りを懸念する声が強まっている。金曜日の債券市場は前日比ほぼ変わらずで引けたが、先週は米国2年国債利回りが23bp上昇して2.68%、米国10年国債利回りが7bp上昇して2.9%となった。欧州中央銀行(ECB)高官の発言もタカ派に傾いており、デギンドスECB副総裁は先週、7月からの利上げも「ありうる」と述べた。

中央銀行のタカ派コメントに加え、金曜日に発表された4月の米総合購買担当者景気指数(PMI)速報値でも、製造業およびサービス業の両部門で投入価格の上昇が鮮明になった。インフレはピークアウトしつつあるとの見方に反して、同指数を算出するマークイットのプレスリリースでは「投入価格が急騰する中、製造業およびサービス業はともに産出価格が統計開始以来の高水準となった」と述べている。

一方、米国の2022年1–3月期の決算シーズンが総じて好調なスタートを切ったことは支援材料である。S&P500企業の25%がこれまでに決算を発表し、その内8割が利益予想を上回った。全体で見ると、利益が予想を6%上回り、4–6月期の見通しは横ばいである(下方修正した企業はない)。だが注目企業の中には失望を誘う決算も見られた。動画配信大手は会員数が減少に転じたため、決算発表後に株価が3割強下落した。

会員数減少は、コロナ禍で巣篭り需要の恩恵を受けてきた消費活動の「反動」を示唆する。消費支出は航空、ホテル、コンサートチケットなど経済活動の再開分野へとシフトしている。例えばクレジット会社大手は、企業の出張費が力強く伸びていると報告している。

一方、中国は引き続きゼロコロナ対策を強化しており、上海当局は一定の感染収束基準を満たすまで厳格な移動規制を延長すると述べている。こうした措置は中国経済の逆風となる。我々は、消費の減速と一部資本財セクターの軟調を踏まえ、2022年通期のMSCI中国企業の利益成長見通しを2ポイント引き下げて11%とした。

またロシアがウクライナ東部で新たな攻撃を開始し、ウクライナ情勢も悪化している。対ロ制裁拡大の可能性についても不透明感が強く、欧州連合(EU)でロシア産原油の禁輸をめぐる検討が行われる中、経済への波及効果も見通しづらい。

最後に、株式に対する市場センチメントは依然として低調だ。22日のロイターの報道によると、リフィニティブ・リッパーのデータとして、4月20日までの1週間に世界の株式ファンドから152億米ドルの資金が流出した。これは12月15日以降、週間では最大の資金流出である。

今後の展開

市場はFRBの年内の利上げを織り込みすぎた可能性があると我々はみている。1カ月前のFRBメンバーによる金利予測分布図(ドット・プロット)では、2022年末のフェデラルファンド(FF)金利を約1.9%と予測していた。だが、市場は現在、7月にもこの水準を達成すると予想しており、年末のFF金利は2.83%を織り込んでいる。

FRBのタカ派的な発言で、好材料の一部では視界が曇りつつある。

パンデミックに起因する価格の歪みは緩和しつつある。一部品目の価格は上昇が減速するか、低下に転じている。3月の米国の食品とエネルギーを除いたコアCPI (消費者物価指数)は、前月比で0.3%上昇と、昨年9月以来最小の伸び率にとどまった。今後は昨年のベース効果もあり、インフレ率は減速が見込まれる。

供給制約も緩和の兆しが見えつつある。海運コストも低下しており、海運の運賃を指数化した「バルチック海運指数」は、2021年10月のピークから約60%下落している。米国の3月の労働参加率は62.4%と小幅上昇した。これはパンデミック発生以来の水準である。加えて、これまでのところ、賃金上昇率も生産性の向上を伴っており、賃上げによるインフレ押し上げを和らげている。

しかし、長引く高インフレに対してFRBが厳しい姿勢を示していることから、インフレ鈍化を示唆する明確なデータが確認されるまでは、金融引き締めによる景気後退懸念は当面高い状態が続くだろう。

FRBも金融引き締め策によりインフレを抑え込むことはできるが、景気に「コラテラルダメージ(付随的損害)」を招く可能性があると予想している。景気減速に伴い、主要指標に弱含みが現れ始めれば、市場は織り込んだ利上げペースをやや巻き戻す可能性がある。

インフレ持続とFRBの積極的引き締めは、景気と金融市場にリスクではあるが、我々の基本シナリオでは、米国経済が今後12カ月以内に景気後退入りすることは想定していない。米国経済のモメンタムは健在である。ISM景況感指数は製造業・非製造業ともに依然景気拡大領域で推移している。雇用市場も需給が引き締まっており、賃金も上昇している。家計のバランスシートも堅調を維持している。

金利上昇は、その他の条件が等しければ、債券に対する株式の相対的な魅力度を下げるだろう。ただし、その場合、企業業績の堅調な伸びが確認される必要がある。

米国では1-3月期の決算発表が進んでいるが、注目のコスト上昇圧力については、過去数四半期と同様、大半の企業はコスト増を消費者に転嫁することに成功している。その結果、利益率は予想を上回り、底堅さを示している。我々は、S&P500種のEPS(1株当たり利益)については、2022年は230米ドル(10%増益)、2023年は245米ドル(7%増益)を予想している。

投資見解

我々の基本シナリオでは景気拡大を維持しつつインフレ率は減速すると想定しており、よって投資を継続することを勧める。インフレ高進、金利上昇、ボラティリティの増大という環境下で堅調なパフォーマンスが見込まれる以下の資産の保有を高めることを勧める。

コモディティ: インフレ高進局面では歴史的にコモディティ全般が好調に推移している。また、ロシア・ウクライナ情勢から今後さらなる供給混乱が生じるリスクがあるなかで、地政学リスクに対する効果的なヘッジとしても引き続き機能すると考える。今後6カ月間でコモディティ指数にはさらに10%程度のトータルリターンの余地があると我々はみている。投資家にはコモディティの買いポジションの継続、特にアクティブ戦略を勧める。

バリュー銘柄: エネルギーなどのバリュー(割安)株は、テクノロジーなどのグロース(成長)株と比べると金利上昇による負の影響を受けにくい。グロース銘柄の株価は一般に、将来の利益の比重が高くなる。

ディフェンシブ銘柄: 株式ポートフォリオにおいて景気循環銘柄とディフェンシブ銘柄をバランスよく取り入れることを勧める。ディフェンシブ銘柄の中ではエネルギーとヘルスケアを推奨する。エネルギー銘柄は依然割安であり、足元で株価に織り込まれている原油価格は1バレル当たり70米ドル半ば程度であると思われる。また、ヘルスケアなどのディフェンシブ銘柄の保有比率を高めることで、ポートフォリオ全体のボラティリティの低減に寄与することが可能である。

債券: 債券市場においては、金利の上昇は債券の価値の上昇を意味する。我々は3月に投資適格債の投資推奨を非推奨から中立に引き上げた。また新興国市場の短期デュレーション債券(残存期間の短い債券)の一部についても有望視している。ハイイールド債の中では環境・社会・ガバナンス(ESG)に注力する銘柄に投資機会があるとみる。また、資金の現金化が一定期間制限されることをいとわず追加リスクをとることが可能な投資家には、ダイレクトレンディングも上場市場を上回るインカム獲得機会が期待できる。

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本稿は、UBS AGが作成した“Market pessimism mounts”(2022年4月24日付)を翻訳・編集した日本語版として2022年4月25日付でリリースしたものです。本レポートの末尾に掲載されている「免責事項と開示事項」は大変重要ですので是非ご覧ください。過去の実績は将来の運用成果等の指標とはなりません。本レポートに記載されている市場価格は、各主要取引所の終値に基づいています。これは本レポート中の全ての図表にも適用されます。
Mark Haefele

最高投資責任者
UBS Global Wealth Management

Mark Haefele

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プリンストン大学で学士号、ハーバード大学で修士号と博士号を取得。フルブライト奨学生として、オーストラリア国立大学で修士号を取得。ソニック・キャピタルの共同創立者および共同ファンドマネジャー、マトリックス・キャピタル・マネジメントのマネージング・ディレクターを務め、チーフ・インベストメント・オフィスが設立された2011年に、インベストメント・ヘッドとしてUBSに入社。

ハーバード大学にて講師および学部長代理を歴任。市場動向ならびにポートフォリオ管理に関するハフェルの見解は、CNBC、Bloombergをはじめグローバルなメディアで定期的に取り上げられている。

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