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新変異株への懸念で株価急落

新型コロナウイルスの新たな変異株「オミクロン株」が見つかったことを受けて、先週末の各国市場はリスクオフに傾いた。

何が起きたか?

リスク資産は26日(金)、新型コロナウイルスの新たな変異株「オミクロン株」への不安心理から、大きく値を下げた。南アフリカで感染が拡大しているこの新変異株「B.1.1.529」は、ウイルス表面にあるスパイクタンパク質に30カ所以上の変異が確認されており、英国当局は、既存のワクチンがターゲットにしているスパイクタンパク質とは「大きく異なる」と指摘している。世界保健機関(WHO)は26日、オミクロン株を「懸念される変異株」に分類した。

スパイクタンパク質の変異が今後の感染率と入院率に与えうる影響が警戒され、世界中で株価が下落した。S&P500種株価指数は2.3%安、ストックス欧州600指数は3.7%安で取引を終え、欧米市場に先行する香港のハンセン指数は2.7%下落した。市場が予想する株価変動率(ボラティリティ)の指標であるVIX指数は10ポイント高の28と、今年2月以来で最大となった。投資家が国内総生産(GDP)成長へのリスクと、中央銀行の金融緩和縮小ペースが減速する可能性を織り込む中、債券価格は上昇し、米2年国債と米10年国債の利回りは、それぞれ14ベーシスポイント(bp)と16bp低下した。

特に、景気動向に敏感なシクリカル・セクターへの打撃が最も大きかった。S&P金融指数は3.3%、同エネルギー指数は4.1%下落した。エネルギー指数の下げを牽引したのは、ブレント原油価格の下落(本稿執筆時点で11.5%)である。グロース株は利回り低下によってやや支えられ、ナスダック総合指数は2.2%安、S&PのIT指数で2.6%安、同コミュニケーションサービス・セクター指数で1.8%安にとどまった。米ドルは米国債利回りの低下に伴い下落(DXYは0.7%低下)、スイス・フランと円は対米ドルで、それぞれ1.4%と1.8%上昇した。金価格は、米ドル安と実質金利の低下により、0.2%上昇した。

この状況をどう解釈するか?

過去1週間には、欧州での新規感染者数の増加と、オーストリアのロックダウン等の規制再導入が報じられたが、株式市場は動揺しなかった。オミクロン株の場合は、変異部位の多さからワクチンの有効性への疑念が再燃した。

我々は、市場と同様、新たな変異株の出現には警戒し、状況の進展を慎重に注視していく。だが、データサンプルは数が少なく、大きな誤差を含んでいる可能性もあることから、現状のデータだけをもって急いで投資判断を下すべきではないと考える。

  • これまでの判断は、南アフリカの患者100人のみに基づくものであり、かなりの誤差を含んでいる可能性がある。アワ・ワールド・イン・データ(OWID)によると、現時点で2回目のワクチン接種を完了している人は南アフリカの人口の24%にとどまっている。この変異株の完全ワクチン接種者に対する感染力を懸念するのは、まだ早い段階である。
  • OWIDのデータに基づくと、南アフリカ全体の感染率も緩やかな上昇にとどまっている。1日の100万人当たり感染者数の7日間移動平均は、11月初めの6人前後から17人前後にまで上昇したが、7月に記録したピークの330人に比べるとかなり少ない。また、オーストリアの100万人当たり1,550人など、欧州の感染中心地と比較してもはるかに少ない。
  • 変異の多さから、従来の変異株よりも病毒性と感染性が強いと判断するのは時期尚早だ。新たな変異株の抗体およびワクチンへの感受性が判断されるまでには数週間程度かかるとみられる。およそ35という変異の数の多さが取り沙汰されている。これらの変異の一部は、他の変異株の緩やかなワクチン耐性と関係があるとみられるが、それらを合わせた影響はまだ評価されていない。
  • これまでに出現した他の新型コロナの変異株は、感染拡大が懸念されたものの実際には感染は広がらなかった。例えば、今年初めに出現し、多くの変異を起こし、当初はデルタ株よりも約15%感染力が高いと思われていたC.1.2株は現在、南アフリカの感染の5%未満を占めるに過ぎない。
  • 1点懸念されるとすれば、オミクロン株がこれまでの変異株と大きく異なるならば、新たなワクチンが必要になるかもしれないということだ。しかし、ある程度のワクチン(抗体)回避能力はあるだろうが、完全に回避する可能性は低いと我々は見ている。また米国の大手ワクチン製造会社の最高経営責任者は今週、新たな変異株のワクチンをシークエンシング(塩基配列決定)後100日以内に供給開始し、その後の12カ月間で40億回分を提供できると発言した。
  • 新型コロナに対する新たな武器であり、株価上昇につながった抗ウイルス薬も、2022年初めには実用化される見通しである。これらの治療薬はスパイクタンパク質をターゲットにしていないため、新たな変異株に対する有効性が疑問視されることはないと考える。

我々は、世界経済は平坦ではないが完全再開に向けた道を進み続け、力強い成長を示すと見込んでおり、現時点で入手できる情報からは、オミクロン株がこの見方を変える根拠にはならないと考える。また、新変異株が成長見通しに及ぼす影響への懸念が、早期金融引き締めへの投資家の懸念を弱めることも注目に値する。感謝祭の休日前には、米国の10月の個人消費支出(PCE)物価指数が上昇し、米連邦準備理事会(FRB)の一部の高官の発言がタカ派色を帯び、ハト派のブレイナード理事ではなく、パウエル議長が再任されたことを受けて、金融引き締めに関する懸念が高まっていた。

今後数週間は、新たな変異株の感染者数増加、地域別の感染拡大状況、およびそれによって引き起こされる症状の深刻度をモニタリングしつつ、ワクチン製造会社からの有効性データの発表も注視していく。我々の見方に対するリスクには、変異株のワクチン・抗体に対する耐性の高まり、抗ウイルス薬での治療が有効ではないと証明されるデータ、主要国政府による行動制限措置の再導入・強化と、それに伴うGDP成長率への深刻な影響などがある。

投資見解

投資家には、投資戦略の変更を焦らず、投資を継続することを勧める。市場は、感謝祭の週で流動性が比較的低かったために過剰に反応した可能性があり、システマティック戦略の投資家がポジションの再調整を行う中、今後数日はボラティリティ(変動率)が高い状態が続くだろう。

強い相場上昇後に市場のボラティリティが高まる局面が始まっても大きな驚きではない。むしろこれにより、様々な市場とセクターにわたった分散投資の重要性を再確認することができる。

我々は、今回のボラティリティの高まりにもかかわらず、エネルギーと金融に対する強気な見方を維持する。

エネルギーセクターは、今年から来年にかけて原油価格の高止まりが続くと予想されることから、良好な地合いが維持されるだろう。ブレント原油は、3月までに1バレル=90米ドルをつけると予想する。これまで複数の変異株が出現したが、2020年4月以降の原油需要は、地域と製品によって差はあるものの、増加傾向が続いている。現時点での原油需要が1日当たり1億バレルとなる中、このトレンドは継続すると予想する。さらに、石油輸出国機構(OPEC)加盟国と主要産油国で構成するOPECプラスは、12月2日の定例会合で、生産量の維持か減産を決定する可能性がある。

金融セクターは26日の利回り低下による打撃を受けたが、第3四半期の堅調な企業決算発表後に、セクターの業績見通しは上方修正されている。また、最近の欧州中央銀行(ECB)のデータからは、民間セクターの信用の伸びが示された。

ヘルスケアでの機会を探る。ヘルスケア・セクターは、26日に良好なパフォーマンスを見せたセクターの1つである。リスク回避の局面では、ディフェンシブ・セクターへのエクスポージャーを維持する重要性が改めて確認される。我々は、ヘルスケア・セクターはディフェンシブ性と成長性の双方を兼ね備えていると見ており、同セクターの戦術的・戦略的見通しについて楽観視している。バリュエーションは、最近パフォーマンスが低迷したこともあり、魅力的とみられる。12カ月先予想株価収益率では、MSCIワールド指数を2%上回っているが、長期平均の10%は下回っている。ヘルスケア・セクターは巻き返しは遅れ気味であるが、米国の薬価を巡る不確実性が解消されるに伴い、本格化すると考える。

オルタナティブ(代替資産)への分散。オルタナティブへのエクスポージャーを増やすことで、投資家はボラティリティの高い局面で恩恵を得られると考える。第1に、プライベートエクイティかヘッジファンドかにかかわらず、オルタナティブ投資は、流動性が低いために、相場の下落時に売りが加速する相場展開に巻き込まれずに済む。同資産クラスは、リスク調整後リターンにポテンシャルがあり、歴史的に見て株式よりも下振れへの感応度が低く、他の資産クラスとの相関性が低いことから、魅力的だと考える。

非伝統的な利回りを追求する。低金利環境が続き、スプレッドが縮小しているため、アジアを除いて、伝統的なハイイールド市場では収益機会がほとんど見いだせない。こうした状況を踏まえ、プライベートクレジットや配当株など、非伝統的な資産から利回りが得られる投資を推奨する。

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本稿は、UBS AGが作成した“CIO Alert: Stocks hit by new COVID-19 variant”(2021年11月26日付)を翻訳・編集した日本語版として2021年11月29日付でリリースしたものです。本レポートの末尾に掲載されている「免責事項と開示事項」は大変重要ですので是非ご覧ください。過去の実績は将来の運用成果等の指標とはなりません。本レポートに記載されている市場価格は、各主要取引所の終値に基づいています。これは本レポート中の全ての図表にも適用されます。

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